スポーツイベントに参加する人とは、誰でしょうか。スタジアムへ行く人。チケットを購入した人。試合を見る人。一般的には、そんなイメージがあります。しかし、大きなイベントほど、その考え方を変える必要があるのかもしれません。

「会場に入った人だけが参加者ではない」。

2026年秋に開催される愛知・名古屋の大型スポーツイベントでは、大会期間中、競技会場の外でも公式イベントが開催されます。そこではメダリストの登壇だけでなく、パブリックビューイング、食、文化などを組み合わせ、大会そのものを街へ広げようとしています。

今回はこの事例から、イベントの価値を「会場の中」から「街全体」へ広げる方法について考えてみます。

チケットを買わなければ「参加できない」のか

例えば、大きなスポーツ大会が自分の街で開催されているとします。興味はある。でもチケットは持っていない。スタジアムへ行くほど熱心なファンでもない。そうすると、「大会を開催しているらしい」だけで終わってしまう可能性があります。

これは少しもったいない話です。数万人、数十万人が参加する大型イベントでも、その街にはイベント会場へ行かない人の方が圧倒的に多いからです。

そこで重要になるのが、「チケットを持っていない人も参加できるイベント体験」です。

パブリックビューイングは「巨大な入口」になる

その代表的な仕掛けがパブリックビューイングです。一見すると、「大きなスクリーンで試合を見るだけ」に思えるかもしれません。

しかしイベント設計の視点から見ると、非常に重要な役割があります。

スタジアムには、チケットという入口があります。一方、パブリックビューイングには、興味という入口しかありません。「ちょっと見てみよう」「盛り上がっているから行ってみよう」「仕事帰りに寄ってみよう」そんな人でも参加できます。イベントへの参加ハードルを一気に下げられるのです。

「見る」だけでは街には広がらない

ただし、大型スクリーンを置くだけでは十分ではありません。重要なのは、観戦+αです。

愛知・名古屋の公式イベントでも、パブリックビューイングだけではなく、メダリストの登壇や食・文化などを組み合わせたプログラムが予定されています。これは非常に重要な考え方です。

例えば、

スポーツ × 食

地元料理や参加国・地域の料理を楽しむ。

スポーツ × 音楽

試合前後にライブを開催する。

スポーツ × 文化

開催地域の伝統芸能や文化を体験する。

スポーツ × 子ども

競技体験やアスリートとの交流をつくる。

すると、「スポーツに興味がある人」だけではなく、

食に興味がある人
音楽が好きな人
子ども連れの家族
観光客
地域住民

まで参加できるようになります。

イベントの「入口」を増やす

これは企業イベントにも応用できます。例えば企業カンファレンスを開催するとき、「講演を聞きたい人」だけをターゲットにすると、参加者には限界があります。

しかし、講演。展示。ワークショップ。ネットワーキング。食。エンターテインメント。体験コンテンツ。など複数の参加理由を用意すると、人によって違う「イベントへの入口」をつくることができます。

Aさんは講演が目的。Bさんは人との出会いが目的。Cさんは新商品を見るため。Dさんは体験コンテンツが目的。参加理由は違っていいのです。

むしろ、入口が多いイベントほど、多様な人を巻き込める。とも言えます。

会場の外にも「入口」をつくる

さらに重要なのが、イベント会場そのものを広げることです。前回の記事では、イベントは「知らなかった街」へ人を動かすというテーマを取り上げました。

今回はその逆です。街にいる人をイベントへ巻き込む。スタジアム。駅前広場。商業施設。ホテル。飲食店。公園。観光施設。これらをイベントネットワークとしてつなぎます。

例えば飲食店で試合を中継する。商業施設で競技体験を開催する。駅前でパブリックビューイングをする。ホテルで選手や大会をテーマにしたメニューを提供する。

すると街そのものに、「イベントに触れる場所」が増えていきます。

「イベント会場」という概念をなくしてみる

ここで一度、発想を変えてみましょう。イベントには必ず、「会場」が必要なのでしょうか。もちろん物理的な会場は必要です。しかし参加者体験という意味では、

イベント会場=一つの建物

である必要はありません。街に100カ所のイベント接点があれば、

街そのものがイベント会場

になります。これは世界の大型イベントでも見られる考え方です。そして現在開催中のTokyo Festival 2026も、9月1日から11月3日まで東京都内各地を舞台に、さまざまな舞台芸術を展開する都市型フェスティバルとして設計されています。東京都は、東京を世界とつながる舞台芸術の国際的プラットフォームにすることを目指しています。

一つの建物へ人を集めるのではなく、街の中にイベントを分散させる。イベントの考え方が変わってきています。

なぜ「食」が重要なのか

そして、街へイベントを広げるとき、非常に重要になるのが「食」です。スポーツに興味がない人でも、「美味しいものを食べたい」という動機なら参加できます。

前々回取り上げたOktoberfestも、その典型です。ビールや食事はイベントの付帯サービスではありません。イベントそのものを構成する重要な体験です。地域の飲食店やケータリング事業者までイベントに参加できれば、

イベント

飲食

街歩き

買い物

観光

宿泊

という流れも生まれます。「食」をイベントの中に入れることは、地域への経済波及を生み出す入口にもなるのです。

「来場者数」では測れなくなる

街全体へイベントを広げると、一つ困ることがあります。来場者数だけではイベントの規模を測れなくなることです。そこで新しいKPIが必要になります。

例えば、

イベント接触者数
パブリックビューイング参加者数
地域回遊率
飲食店利用率
SNS投稿数
滞在時間
地域消費額
再訪意向

などです。「会場へ何人来たか」から、「イベントが何人の行動を変えたか」へ。イベントの評価方法も変わっていく必要があります。

企業イベントでも「参加していない人」を考える

これは地域イベントだけの話ではありません。例えば1,000人の社員がいる会社で、300人が参加する社内イベントを開催したとします。従来なら、「300人参加した」で評価します。

しかし、残り700人はどうでしょう。オンライン配信。社内SNS。ダイジェスト動画。参加者からの投稿。社内サテライトイベント。こうした接点をつくれば、会場へ来なかった700人もイベント体験に巻き込めます。

イベントを考えるとき、「誰を会場へ呼ぶか」だけではなく、「会場に来ない人とどう接点をつくるか」まで考える。これは企業イベントでも非常に重要な視点です。

日本企業が取り入れたい5つのポイント

1.参加者を「来場者」だけで定義しない

イベントに触れた人すべてを参加者として考えます。

2.イベントへの入口を複数つくる

講演、食、音楽、体験、交流など、異なる参加理由を用意します。

3.会場の外にもコンテンツを置く

商業施設、ホテル、飲食店などとの連携によってイベントエリアを広げます。

4.「ついでに参加できる」を設計する

イベント参加の心理的・時間的ハードルを下げます。

5.「来場者数」から「接触者数」へ

イベントがどれだけ多くの人へ影響したのかを測ります。

編集部からの考察

この連載ではここ数回、イベントには「人を動かす力」があるというテーマを追っています。Oktoberfestでは、イベントが街へ行く理由になる。ジャングリア沖縄の記事では、イベントがエリアへの入口になる。前回の愛知・名古屋の記事では、イベントが知らなかった街へ人を動かす。

そして今回は、その逆です。街にいる人を、イベントへ巻き込む。この二つが組み合わさると、「イベント → 人 → 街」だけではなく、「街 → 人 → イベント」という双方向の流れが生まれます。

イベント会場へ人を閉じ込めるのではなく、イベントを街へ開いていく。そうすると、競技を見なかった人。チケットを持っていない人。偶然その街を訪れた人。地域で暮らしている人。そうした人までイベントの参加者になります。

これからイベントを企画するとき、「何人を会場へ集めるか?」の次に、もう一つ問いを置いてみてもいいかもしれません。「会場に来ない人まで、どうやってイベントに巻き込むか?」その問いから、イベントの可能性はさらに広がっていくのではないでしょうか。

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