イベントには、人を集める力があります。しかし、それ以上に注目したい価値があります。人を「普段なら行かなかった場所」へ動かす力です。コンサートを見るために、その街へ行く。国際大会を見るために、飛行機に乗る。カンファレンスへ参加するために、ホテルへ泊まる。そして、せっかく来たから地域の料理を食べ、観光地を訪れ、街を歩く。

イベントを起点として、人の移動が生まれます。この「イベントが人を動かす」という力を示す興味深いデータが、2026年9月3日にAgodaから発表されました。

今回は、2026年秋に愛知・名古屋エリアで開催される大型スポーツイベントを題材に、イベントが開催都市だけでなく、その周辺地域まで人を動かす可能性について考えてみます。

豊田市への旅行関心が「715%増」

Agodaは、2026年9月19日から10月4日まで開催されるアジア最大級のスポーツイベント期間について、愛知県内の開催都市への宿泊検索動向を分析しています。

その結果、通常期と比較した旅行関心の伸びは、

豊田市 +715%
一宮市 +504%
刈谷市 +324%
岡崎市 +237%

となりました。非常に興味深い数字です。注目したいのは、名古屋だけではありません。豊田、一宮、刈谷、岡崎といった競技が開催される周辺都市へ旅行者の関心が広がっていることです。

つまりイベントによって、「名古屋へ行く」だけではなく、「豊田へ行く」「一宮へ行く」「刈谷へ行く」という新しい移動理由が生まれています。

イベントは「知らなかった街」を目的地に変える

例えば、一宮市。その街へ行ったことがない人に、「今度、一宮へ旅行しませんか?」と広告を出しても、簡単には人は動かないでしょう。

しかし、「そこで見たい試合が開催される」となれば話は変わります。イベントという明確な目的ができるからです。試合を見るために一宮へ行く。そこで宿泊する。地元の飲食店へ行く。街を歩く。地域の観光スポットを知る。

そして、「こんな街だったんだ」という発見が生まれる。イベントには、それまで接点のなかった地域と人をつなぐ力があります。

本当の勝負は「試合終了後」

しかし、ここで終わってしまうと一過性です。スポーツイベントが終われば、人は帰ってしまいます。だからこそ地域側には、「イベント来場者を、どう地域体験へつなげるか」という設計が必要になります。

例えば、

試合チケット × 地域飲食店クーポン。

試合チケット × 観光施設。

試合チケット × 地域周遊バス。

試合後のナイトイベント。

地元商店街でのファンイベント。

地域の食を集めたフードフェス。

こうした仕掛けを組み合わせることで、観戦 → 街へ出る → 食べる → 体験する → 宿泊するという導線をつくることができます。重要なのは、イベント会場をゴールにしないことです。イベント会場を「地域体験のスタート地点」にする。という発想です。

「来場者数」から「地域回遊率」へ

ここからイベントのKPIも変わってきます。従来のイベントでは、「何人来場したか」が重要な指標でした。もちろん来場者数は重要です。しかし、地域にとって本当に重要なのは、その人たちが地域で何をしたのかではないでしょうか。

例えば、地域宿泊率。平均宿泊日数。飲食店利用率。観光施設利用率。地域回遊率。一人当たり地域消費額。イベント前後の滞在時間。再訪意向。

こうした指標まで見ることができれば、イベントが地域にもたらした価値をより正確に測定できます。イベントの成果指標を、来場者数から、「何人を、どこまで動かしたか」へ変えていくのです。

海外からも人が動く

今回のデータでは、さらに興味深い動きがあります。愛知県内の開催都市を検索している海外市場では、台湾からの検索数が最も多く、韓国、香港、フィリピン、中国が続いています。

また通常期との比較では、中国から開催都市への旅行関心が+724%、フィリピンからは+249%となっています。つまり大型イベントは、国内の地域間移動だけでなく、国境を越えて地方都市へ人を動かす装置にもなります。

これはMICEにも共通する考え方です。国際会議。展示会。企業カンファレンス。インセンティブトラベル。こうしたイベントを地方都市で開催することで、それまでその地域を知らなかった海外参加者との接点をつくることができます。

これは「ジャングリアの記事」と同じ構造

前回BizMICEでは、ジャングリア沖縄を題材に、「ジャングリアへ人を呼ぶ」のではなく、「沖縄北部へ行く理由」をイベントでつくるという考え方を紹介しました。

今回の愛知の事例を見ると、この考え方がより分かりやすくなります。

スポーツを見るために愛知へ行く。

競技を見るために豊田・一宮・刈谷などへ行く。

地域を歩く。

食事をする。

観光する。

宿泊する。

その街を知る。

イベントがなければ、その街を訪れなかったかもしれません。つまり、イベントが「地域との最初の接点」をつくっているのです。

世界では「イベント×デスティネーション」が進んでいる

前回紹介したドイツ・ミュンヘンのOktoberfestも同じです。イベントそのものが、「ミュンヘンへ行く理由」になっています。さらに今年9月には東京ビッグサイトで「ツーリズムEXPOジャパン2026」が開催されます。

今年は70以上の国・地域が参加し、4日間で18万人の来場が見込まれています。また、同時開催されるVISIT JAPANトラベル&MICEマートでは、海外バイヤー約280社、国内の自治体・DMO・宿泊施設など約350社・団体が参加する予定です。

観光とイベントは、ますます近い存在になっています。

日本企業が取り入れたい5つのポイント

1.イベント会場を「ゴール」にしない

会場へ来てもらって終わりではなく、そこから地域へ人を動かす導線を設計します。

2.イベント前後までプログラム化する

前夜祭、アフターイベント、地域ツアー、食体験など、イベントの前後も体験として考えます。

3.地域事業者をイベントに巻き込む

ホテル、飲食店、交通、観光施設などを「イベントの外部」ではなく、イベント体験の一部として考えます。

4.「来場者数」以外のKPIを持つ

地域回遊率、宿泊率、地域消費額、再訪意向など、人がどう動いたかを測定します。

5.イベントを「地域を知ってもらう入口」にする

一度来てもらえば、その地域の魅力を体験してもらうことができます。まず人を動かす。

そこにイベントの大きな価値があります。

編集部からの考察

今回のAgodaのデータで特に興味深いのは、豊田市の+715%という数字だけではありません。イベントによって、普段は旅行先として選ばなかったかもしれない都市まで検索されていることです。これはイベント業界にとって、とても重要な示唆ではないでしょうか。

これまでイベントの価値は、

集客。

商談。

情報発信。

ブランド体験。

コミュニティ形成。

といった「会場の中」で語られることが多くありました。しかし、イベントにはもう一つあります。人を動かすことができる。

人が動けば、

交通が動く。

ホテルが動く。

飲食が動く。

観光が動く。

街が動く。

そして、その地域を知らなかった人が、その地域を知る。

だからこれからのイベント設計では、「何人集めるか」だけではなく、「その人たちをどこへ動かすか」まで考える必要があるのかもしれません。イベント会場の外まで設計する。そこまで考えたとき、イベントは単なる催事ではなく、「その街へ行く理由をつくる装置」になるのではないでしょうか。

◆連載一覧「世界のイベントから学ぶ」

Vol.1 ワールドカップから「体験価値」
Vol.2 SXSWから「街をイベント化する発想」
Vol.3 CESから「未来を体験させる展示」
Vol.4 Dreamforceから「コミュニティ」
Vol.5 Web Summitから「出会いの設計」
Vol.6 Tomorrowlandから「世界観と没入体験」
Vol.7 Burning Manから「参加者との共創」