イベント会場に足を踏み入れた瞬間、「日常とは違う世界に来た」と感じた経験はあるでしょうか。ステージを見る前から気持ちが高まり、会場を歩いているだけでも楽しい。写真を撮りたくなり、その場所にいること自体が特別な体験になる。

そんな「没入感」を徹底的につくり込んでいるイベントの代表格が、ベルギーで開催される世界的な音楽フェスティバル「Tomorrowland」です。世界各国から参加者が集まるTomorrowlandは、単に有名アーティストの音楽を楽しむフェスではありません。

会場装飾、ステージ、スタッフ、飲食、デジタル体験、さらにはイベント前後のコミュニケーションまで、一つの物語の中に組み込まれています。今回はTomorrowlandから、企業イベントやMICEにも応用できる**「世界観を設計する」という考え方**を学びます。

Tomorrowlandとは?

Tomorrowlandは、ベルギーのボームで開催される世界最大級のエレクトロニック・ダンス・ミュージックフェスティバルです。2005年に始まり、現在では世界各国から参加者が訪れる国際的なイベントへと成長しました。

特徴的なのは、毎回設定されるテーマに合わせて巨大なステージや会場全体がつくり込まれることです。まるで映画やテーマパークの世界に入り込んだような空間が広がり、「音楽を聴く」だけではない体験を生み出しています。

イベントに「物語」をつくる

Tomorrowlandの大きな特徴が、イベントごとに設定されるテーマとストーリーです。ステージを豪華に装飾するだけではありません。会場デザイン、映像、Webサイト、チケット、演出など、参加者が触れるさまざまな要素が同じ世界観の中で設計されています。

つまり、イベントそのものを一つの物語としてつくっている、のです。

企業イベントでも、この考え方は応用できます。例えば、新製品発表会なら「新製品を紹介する」という目的だけでなく、「この製品によって5年後の暮らしはどう変わるのか」というストーリーを設定する。

周年イベントなら、「過去を振り返る → 現在を共有する → 未来へ向かう」という物語を会場全体で表現する。

プログラムを並べるのではなく、参加者がどのような物語を体験するのかを考えることで、イベント全体に一貫性が生まれます。

会場に入る前からイベントは始まっている

イベント体験というと、会場に到着してからを考えがちです。しかしTomorrowlandでは、参加者の期待感をイベント開催前から高めていきます。公式サイトやSNSでの情報発信、テーマの発表、チケットや関連コンテンツなどを通じて、参加者は少しずつイベントの世界へ入り込んでいきます。

つまり、イベント当日が体験のスタートではない、ということです。

これは企業イベントでも非常に重要な視点です。招待状、参加登録サイト、開催前メール、SNSなどもイベント体験の一部として設計する。

例えば開催1週間前に登壇者からメッセージを送ったり、イベントテーマに関連するコンテンツを届けたりするだけでも、参加者の期待感は変わります。

「どこを撮っても絵になる」空間をつくる

Tomorrowlandの会場では、巨大なメインステージだけでなく、会場のさまざまな場所が世界観に合わせてデザインされています。その結果、参加者自身が写真や動画を撮り、SNSで発信します。

ここで重要なのは、公式の広告だけに頼っていないことです。参加者自身がイベントのメディアになる、という仕組みが生まれています。

企業イベントでも、フォトスポットを一つ設置して終わるのではなく、「参加者はどこでスマートフォンを取り出したくなるだろう?」という視点で会場を設計すると、SNSでの発信を促しやすくなります。

ステージ、受付、展示、休憩スペース、飲食エリア。

会場のさまざまな場所に「撮りたくなる瞬間」をつくることがポイントです。

スタッフも世界観の一部

イベントの印象を決めるのは、ステージや装飾だけではありません。受付スタッフ、案内スタッフ、運営スタッフなど、参加者が接する「人」もイベント体験の一部です。

どれだけ素晴らしい空間をつくっても、案内が分かりにくかったり、スタッフごとに対応が異なったりすれば、没入感は途切れてしまいます。

企業イベントでも、

  • スタッフの服装
  • 挨拶や言葉遣い
  • 案内方法
  • サインや表示
  • 来場者への対応

まで含めて統一することで、イベントの世界観はより強くなります。世界観はデザイン部門だけがつくるものではなく、運営チーム全体でつくるものなのです。

「参加していること」そのものに価値をつくる

Tomorrowlandでは、イベント参加そのものが一種のステータスやアイデンティティになっています。世界中から参加者が集まり、同じ音楽や世界観を共有することで、「この場所にいる人たち」というコミュニティ意識が生まれます。

これは企業イベントでも重要です。

参加者に、「このイベントに招待されてうれしい」「このコミュニティの一員でありたい」と思ってもらえるか。

イベントの価値を「得られる情報」だけで考えるのではなく、そこに参加する意味まで設計することが、ファンやコミュニティの形成につながります。

日本企業が取り入れたい5つのポイント

① イベントに一つのストーリーを設定する

テーマを決めるだけでなく、参加者がどのような順序で体験し、最後に何を感じてほしいのかまで設計します。

② 開催前から期待感を高める

招待状やメール、SNS、参加登録ページもイベント体験の一部として考えます。

③ 「撮りたくなる瞬間」を会場全体につくる

一つのフォトスポットだけではなく、ステージや展示、休憩エリアなどにも共有したくなる仕掛けを設けます。

④ スタッフまで世界観を統一する

デザインだけでなく、服装、接客、案内方法までイベントコンセプトに合わせます。

⑤ イベント後にも余韻を残す

写真やダイジェスト動画、限定コンテンツなどを届け、参加者がイベントを思い出す機会をつくります。

編集部からの考察

これまで「世界のイベントから学ぶ」では、ワールドカップのファンゾーンから「体験価値」、SXSWから「街全体を会場にする発想」、CESから「未来を体験させる展示」、Dreamforceから「コミュニティ」、Web Summitから「出会いの設計」を見てきました。

今回のTomorrowlandから学べるのは、それらの体験を一つにつなぐ**「世界観」**の力です。イベントには、ステージ、展示、映像、飲食、ネットワーキングなど、さまざまな要素があります。

しかし、それぞれがバラバラに存在しているだけでは、強い記憶にはなかなか残りません。「何を感じてもらいたいのか」という一つのコンセプトのもとで、それらをつなげる。するとイベントは、単なるプログラムの集合ではなく、一つの体験になります。

これからのイベント担当者に求められるのは、「何を実施するか」だけを考えることではなく、参加者にどんな世界を体験してもらうのかを考えることなのかもしれません。

◆過去の連載

第1回:【世界のイベントから学ぶ】チケットがなくても参加できる。ワールドカップのファンゾーンに学ぶ「イベント体験」のつくり方

第2回:【世界のイベントから学ぶ】SXSWに学ぶ。「会場」ではなく「街」をデザインするイベントのつくり方

第3回:【世界のイベントから学ぶ】CESに学ぶ。「展示」ではなく「未来」を体験させるイベントの作り方

第4回:【世界のイベントから学ぶ】Dreamforceに学ぶ。「イベントは一日で終わらない」コミュニティを育てるイベント設計

第5回:【世界のイベントから学ぶ Vol.5】Web Summitに学ぶ。「偶然の出会い」を設計するイベントのつくり方