エッフェル塔、ルーヴル美術館、セーヌ川、シャンゼリゼ通り。

ファッション、アート、建築、食、ラグジュアリー。

世界で「パリ」という名前を知らない人は、ほとんどいないでしょう。しかし、MICEという視点でパリを見ると、この都市の本当の強さが見えてきます。それは、大きなコンベンションセンターを持っていることだけではありません。街そのものをイベントの舞台に変えることができる。これこそ、パリが世界有数のMICE都市であり続ける最大の理由ではないでしょうか。

2025年、パリはICCA(国際会議協会)の国際会議都市ランキングで世界2位となりました。ICCA基準では174件の国際会議が開催されています。さらにParis je t’aimeの広い集計では、同年に1,200件の会議が317会場で開催されました。

今回は、世界屈指の都市ブランドをMICEの価値へ変換する「パリモデル」を見ていきます。

1. 「パリで開催する」こと自体が集客コンテンツになる

国際会議や企業イベントを企画するとき、主催者が必ず考えることがあります。

「参加者は本当に来てくれるのか?」

著名な登壇者を呼ぶ。

魅力的なプログラムをつくる。

ネットワーキングの機会を用意する。

もちろん、すべて重要です。しかしパリには、もう一つ圧倒的な武器があります。「開催地がパリである」ということ自体が参加動機になることです。

イベントの前後に美術館を訪れる。

セーヌ川沿いを歩く。

フランス料理を楽しむ。

歴史的建築でレセプションに参加する。

イベント参加と都市体験を切り離す必要がありません。

パリには140の美術館、300以上の劇場、1,000以上のアートギャラリーがあり、イベントの前後に組み込める文化的コンテンツが街中に存在します。つまり、パリでは、MICE × 観光ではなく、MICEそのものが「パリ体験」の一部になる。ここが重要です。

★イベント運営はAIと伴走する時代へ

2. 「会議場」だけではない、317もの開催場所

2025年にパリで開催された会議では、実に317の会場が利用されています。これは、パリのMICEを象徴する数字かもしれません。もちろん大型のコンベンション施設もあります。

しかし、それだけではありません。歴史的建築物、美術館、文化施設、ホテル、劇場など、街に存在するさまざまな空間をイベントに活用できます。

例えば、2024年のパリ五輪では**Grand Palais(グラン・パレ)**がフェンシングやテコンドーの競技会場として使われました。1900年のパリ万博のために建設された歴史的建築物が、120年以上を経て世界最大級のスポーツイベントの舞台になったのです。

パリでは、「イベント会場をつくる」のではなく、「都市にある資産をイベント会場に変える」。この発想があります。

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3. Paris 2024が証明した「都市をイベント会場にする力」

この強みを世界へ強烈に印象付けたのが、パリ2024オリンピック・パラリンピックでした。セーヌ川で行われた開会式をはじめ、エッフェル塔周辺、Grand Palais、コンコルド広場など、パリを象徴する場所がイベント空間になりました。

大会では約1,200万枚のチケットが販売され、世界のテレビ視聴者は推計40億人に達したとされています。ここからMICE業界が学べることがあります。通常、大型イベントを開催するときは、「どの施設を使うか」から考えます。

しかしパリ2024では、「この都市だからこそ、どんな体験をつくれるか」からイベントを考えていました。エッフェル塔を背景に競技を見る。歴史的建築の中で競技を見る。セーヌ川そのものをセレモニー空間にする。都市のアイコンをイベントコンテンツへ変換したのです。

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4. 大型イベントを「都市改造のきっかけ」にする

さらに興味深いのは、パリ2024を一過性のイベントで終わらせなかったことです。大会を契機に、

  • セーヌ川の水質改善
  • 自転車インフラの整備
  • スポーツ施設の新設・改修
  • Olympic Village周辺の都市開発
  • アクセシビリティの改善

などが進められました。

Olympic Villageでは、大会後の利用を前提とした約4,000戸の住宅等が整備され、新設されたAquatics CentreやArena Porte de la Chapelleなども大会後に地域で活用されています。つまり、イベントのために街をつくる。そして、イベントが終わったら、その街を市民へ返す。Vol.9のメルボルンで取り上げた「レガシー型MICE」にも通じる考え方です。

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5. 「世界的ブランド」をイベントに掛け合わせる

パリには、もう一つ他都市が簡単には真似できない強みがあります。それが、世界的な産業・文化ブランドの集積です。

ファッション。

ラグジュアリー。

アート。

食。

デザイン。

美容。

スポーツ。

こうした産業とイベントを組み合わせることで、「パリだから成立するイベント」をつくることができます。例えば企業イベントでも、昼はカンファレンス。夕方は文化施設でレセプション。夜はフランス料理。翌日はアートや建築を巡るインセンティブプログラム。というように、都市に存在するコンテンツそのものをイベントプログラムへ組み込めます。

会場内だけで参加者体験を完結させない。これがパリのMICEの大きな特徴です。

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6. それでも「国際会議都市」として強い

ここまで読むと、「パリは観光都市だから強いだけでは?」と思うかもしれません。しかし数字を見ると、そうではありません。2025年のICCAランキングでパリは世界2位。ICCA基準では174件の国際会議を開催しました。

さらにParis je t’aimeの調査では、2025年の会議開催数は1,200件。2019年の1,084件を上回っています。経済効果も9億4,200万ユーロに達しました。興味深いのは、国際会議が小規模化・専門化する傾向にありながら、経済効果は維持・拡大していることです。

つまり、これからのMICEでは、「巨大イベントを何件開催したか」だけではなく、「価値の高いコミュニティをどれだけ呼び込めるか」も重要になっているのです。

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7. パリから見えてくる「MICE都市」の次の競争

これまでこの連載では、世界のさまざまなMICE都市を見てきました。

シンガポールには国家戦略があります。

ラスベガスには巨大な展示会産業があります。

ドバイには圧倒的な投資力があります。

バルセロナにはテクノロジーがあります。

ウィーンには国際機関と「知」があります。

ソウルにはK-カルチャーがあります。

コペンハーゲンにはサステナビリティがあります。

メルボルンにはレガシーがあります。

そしてパリには、「都市そのものをコンテンツにする力」があります。ここから一つのことが見えてきます。これからのMICE都市競争は、「どこに一番大きな会場があるか」だけでは決まらないということです。

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日本が学ぶべき5つのポイント

① 「会場を売る」から「都市を売る」へ

主催者に提案するものを、会場のスペックだけにしない。食、文化、観光、ナイトタイム、産業、歴史まで含めて、開催地全体をイベント商品として設計することが重要です。

② 日本のランドマークをイベント空間として考える

パリ2024が歴史的建築や都市空間を活用したように、日本でも「その場所でしかできないイベント」を増やせる可能性があります。

京都の寺社、東京のウォーターフロント、大阪の都市空間、瀬戸内の島々など、既存の都市資産をMICEの視点から再編集できます。

③ 「この街だから参加したい」をつくる

アクセスや会場設備だけでは、都市間の差別化は難しくなります。

東京ならテクノロジー。

京都なら文化。

大阪なら食とエンターテインメント。

福岡ならアジアとの近さとスタートアップ。

札幌なら食と自然。

都市ごとの「参加する理由」を明確にすることが重要です。

④ 大型イベントを都市への投資に変える

イベント終了後に使わない施設をつくるのではなく、交通、公共空間、デジタルインフラ、バリアフリーなど、市民にも残る投資へつなげる。

パリ2024の考え方は、日本の大型イベントにも参考になります。

⑤ 「イベント体験」を会場の外まで設計する

参加者体験は受付から始まり、閉会式で終わるものではありません。

空港に到着する。

街を移動する。

イベントに参加する。

食事をする。

人と出会う。

街を楽しむ。

そして帰国する。

このすべてがイベント体験です。MICEを「会場の中」から「都市全体」へ広げることが、これからの日本に必要な視点ではないでしょうか。

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編集部より

パリの事例を見ていると、MICE都市の強さについて改めて考えさせられます。世界最大のコンベンションセンターがあるから強い。ホテルが多いから強い。空港から近いから強い。

もちろん、それらも重要です。しかし、最終的に人を動かすのは、「そこへ行ってみたい」という気持ちなのかもしれません。パリには、その力があります。

そして重要なのは、日本にも同じような可能性があることです。

東京、京都、大阪、福岡、札幌、沖縄。

どの都市にも、その場所にしかない文化、食、産業、景観、歴史があります。必要なのは、それらを観光資源として並べるだけではなく、「イベントを開催する理由」に変換すること。会場を探すところから始まっていたMICEが、「この街で、どんな体験をつくるか」から始まる。そうなったとき、日本のMICEはもう一段、世界で戦える産業になるのではないでしょうか。

パリが教えてくれるのは、最高のイベント会場は、必ずしも建物ではない。都市そのものがイベント会場になり得るということです。

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