Destination Watch Vol.11で取り上げるのは、チェコ共和国の首都プラハです。「百塔の街」と呼ばれる歴史的な街並み。プラハ城、カレル橋、旧市街広場。ヨーロッパを代表する観光都市として知られるプラハですが、MICEの世界でも非常に強い存在感を持っています。

2026年5月に発表されたICCAの2025年実績ランキングでは、世界4,728都市の中で第6位。リスボン、パリ、バルセロナなど世界を代表するMICE都市と並び、世界トップ10を維持しています。さらに2025年には、1,000人以上が参加する大型の専門会議・カンファレンス・企業イベントを50件以上開催しました。

注目したいのは、プラハが東京やパリ、ロンドンのような巨大都市ではないことです。それでも世界中から国際会議が集まる。そこには、日本の地方都市にも参考になるMICE戦略があります。

MICE戦略

「大きな都市」ではなく「選ばれる都市」をつくる

国際会議を誘致しようとすると、大規模コンベンションセンター、大量のホテル、巨大な空港、大都市圏の人口――。こうした「規模」が重要だと思われがちです。もちろん、一定のインフラは必要です。

しかしプラハを見ると、それだけではMICE都市の競争力を説明できません。プラハの大きな強みは、「イベントに参加すること」と「その街を訪れること」が一体になっていること。歴史的な街並み、文化、食、建築、そして比較的コンパクトな都市構造。

国際会議への参加そのものに加え、「プラハに行ける」ことが参加動機になる。これはMICE都市にとって非常に大きな価値です。

MICEの主役は「50〜500人」?

2025年のプラハのMeeting市場で特に伸びたのが、50〜500人規模のイベントです。MICEというと数万人が参加する巨大展示会をイメージしがちですが、実際の市場を構成しているのはそれだけではありません。

医学会。

研究者の会議。

企業カンファレンス。

経営者ミーティング。

インセンティブイベント。

専門家コミュニティ。

こうした数十人〜数百人規模のイベントが年間を通じて開催されることで、都市のMeeting市場が形成されます。つまり重要なのは、「年に数回、巨大イベントを開催する都市」になることだけではない。「一年中、さまざまなMeetingが開催される都市」になること。プラハの成長は、このMICE市場のもう一つの姿を示しています。

注目施設

Prague Congress Centre

プラハMICEの中核を担うのが**Prague Congress Centre(PCC)**です。

現在の施設には、

  • 最大約10,000人を収容
  • 20のホール
  • 50のラウンジ
  • 約13,000㎡の展示エリア
  • 最大2,764席のCongress Hall

など、多様なイベントに対応できるスペースがあります。つまり巨大イベントだけでなく、数十人規模のMeetingから数千人規模の国際会議まで、同じ施設内で柔軟に対応できます。

2026年、「次のMICE」への大型投資がスタート

プラハで今、非常に興味深い動きが進んでいます。2026年6月、Prague Congress Centreで新しいExhibition Hallの建設が正式にスタートしました。投資額は約13.5億チェコ・コルナ。完成は2028年を予定しています。新施設の完成後、Prague Congress Centreの展示スペースは2万1,000㎡超へ拡大する計画です。さらに最大15,000人規模のイベントへの対応を目指しています。

つまりプラハは、すでに世界6位なのに、さらにMICEインフラへ投資している。ここが非常に重要です。世界のMICE都市競争では、「今、人気がある」だけでは十分ではありません。5年後、10年後も世界から選ばれるために、都市側も進化し続ける必要があります。

新展示ホールが面白い理由

新しい展示ホールは、単純に「大きな箱を追加する」という計画ではありません。最大5つの独立したエリアへ分割できる柔軟な設計を予定しており、国際会議、展示会、企業イベント、ガラディナー、文化イベントなど、イベントごとに空間を変えられる構想です。

つまり、「イベントを会場に合わせる」のではなく、「会場をイベントに合わせる」。イベントの多様化が進む今後のMICE施設にとって、重要な考え方です。

プラハがMICE都市として強い5つの理由

① 「行きたい街」である

MICE参加者も、一人の旅行者です。会議だけではなく、「せっかく海外へ行くなら、その街も楽しみたい」。

プラハはこの欲求に非常に強く応えられる都市です。歴史地区そのものが大きな観光資源であり、イベント参加の前後に街を歩くだけでも体験になります。

Destinationの魅力そのものが、イベントの集客力になる。これはMICE都市の大きな競争力です。

② コンパクトだから移動しやすい

巨大都市では、空港→ホテル、ホテル→会場、会場→レセプション会場という移動だけで多くの時間がかかることがあります。

プラハでは主要な都市機能が比較的コンパクトに集積しています。

MICE参加者にとって、「移動時間が短い=交流や体験に使える時間が増える」ということでもあります。

③ 大型イベントだけを狙わない

2025年に特に成長したのは50〜500人規模のMeetingでした。これは日本の地方都市にとっても重要な示唆です。すべての都市が1万人規模の国際会議を誘致する必要はありません。

例えば、500人の医学会。300人のテクノロジーカンファレンス。200人の企業インセンティブ。100人の国際研究会議。こうしたイベントを年間を通じて積み重ねる。「自分たちの都市に合ったMICE市場」をつくることも一つの戦略です。

④ 歴史と最新MICE施設を両立する

プラハの面白さは、歴史都市でありながら、MICE施設は進化し続けていることです。

Prague Congress Centreでは2026年、新展示ホール建設だけでなく、サステナブルなイベント運営に関する国際規格ISO 20121:2024の認証も取得しました。チェコ国内のコンベンションセンターとして初の取得です。

「歴史がある街だから変わらない」のではなく、街の魅力を残しながら、イベントインフラはアップデートする。このバランスが重要です。

⑤ サステナビリティを「施設設計」に入れる

新展示ホールはLEED Gold取得を目標として設計されています。雨水利用、緑地拡大、ヒートアイランド対策、低炭素素材、省エネルギー、ゼロエミッション交通への対応などが計画されています。

つまりサステナビリティをイベント開催時の「オプション」にするのではなく、建物そのものに組み込む。これも世界のMICE施設に共通して見られる変化です。

プラハでは国際会議が開催中

そしてこの記事を公開する2026年9月10日現在も、プラハでは世界から専門家が集まっています。Prague Congress Centreでは9月5日〜10日まで、**International Symposium on Chromatography(ISC 2026)**を開催。

約800人が参加する予定です。さらに9月9日〜11日には、生命科学・遺伝子研究に関するCCP Phenogenomics Conference 2026も開催されています。

つまりMICE都市とは、年に一度、大きなイベントが開催される場所ではありません。今日もどこかの会場で、世界中の人が集まり、知識を交換している都市。プラハは、まさにそんな街です。

BizMICE Insight

日本の地方都市にも「世界と戦えるMICE」がある

プラハの事例から日本が学べる最大のポイントは、「MICE都市=巨大都市」という固定観念を捨てることではないでしょうか。日本には、

京都、

札幌、

福岡、

金沢、

広島、

仙台、

長崎、

沖縄

など、世界的な観光資源や独自の産業・研究機関を持つ都市があります。重要なのは、「東京より大きな会場をつくる」ことではありません。

例えば、

京都 × 文化・大学

札幌 × 食・アグリテック

仙台 × 防災・研究

広島 × 平和・国際交流

福岡 × スタートアップ

長崎 × 医療・歴史

といったように、「このテーマなら、この街で開催する意味がある」という理由をつくることです。そして500人、300人、100人規模の国際会議を年間を通じて積み重ねる。

その結果、

イベントが人を呼び、

人がホテルに泊まり、

街で食事をし、

地域の企業や大学と交流し、

また次のイベントにつながる。

MICEは、巨大都市だけの産業ではありません。むしろ、その土地ならではの「理由」を持つ都市ほど、世界と戦える可能性がある。プラハは、そのことを教えてくれる都市ではないでしょうか。

Destination Watch Score

評価項目評価
国際競争力★★★★★
国際会議★★★★★
都市ブランド★★★★★
参加者体験★★★★★
会場インフラ★★★★☆
サステナビリティ★★★★★
日本が学べる度★★★★★

日本との比較

項目プラハ日本の地方MICE都市
都市規模中規模中〜大規模
強み歴史・文化・コンパクトさ文化・食・自然・産業・研究
MICE戦略国際会議+中小規模Meeting都市ごとに特色ある誘致
インフラPCCを継続拡張都市によって差
今後のポイント世界トップ10の維持「その街で開催する理由」の明確化

編集部コメント

バルセロナが、「MICEを都市ブランドに変えた都市」だとすれば、プラハは、「都市の魅力をMICE競争力に変えた都市」と言えるかもしれません。

世界6位という数字だけを見ると、「巨大なMICE都市」を想像します。しかし実際には、50〜500人規模のMeetingもプラハの市場を支えています。これは日本にとって非常に重要なヒントです。世界から1万人を呼ばなくてもいい。世界から300人が「そのテーマのために、その街へ来る」。それが年間を通じて積み重なれば、大きな産業になります。

MICEの可能性は、東京や大阪だけにあるのではありません。日本全国の都市が持つ**「そこで開催する理由」**を発見すること。それこそが、日本のMICE市場をさらに大きくする次の一手なのかもしれません。

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ソウル:ソウルが描くMICE戦略──K-コンテンツと都市開発を融合させたアジアMICE都市の進化

コペンハーゲン:コペンハーゲンが世界からMICEを集める理由「サステナビリティ」が都市ブランドになる時代

アムステルダム:アムステルダムが世界のMICE都市として選ばれる理由〜「都市全体をイベント会場にする」発想とは

ラスベガス:ラスベガスが世界No.1のMICE都市であり続ける理由〜「展示会」を都市最大の産業にした戦略とは

シンガポール:シンガポールが「世界最高峰のMICE都市」を目指す理由〜MICEを国家戦略に組み込む、小国の強さとは

メルボルン:メルボルンが「イベントの街」として世界から選ばれる理由〜MICEを“開催件数”ではなく「都市へのインパクト」で考える

ウィーン:ウィーンはなぜ「世界トップクラスの国際会議都市」なのか〜7,196件のMeetingを生んだ、“会議が都市経済を動かす”仕組み

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