シンガポール、ラスベガスと世界を代表するMICE都市を見てきたDestination Watch。Vol.8では、南半球へ目を向けます。今回取り上げるのは、オーストラリア・ビクトリア州の州都メルボルンです。メルボルンは、国際会議、展示会、企業イベント、インセンティブ旅行まで幅広いビジネスイベントを誘致する、アジア太平洋地域を代表するMICE都市の一つ。

そして2026年は、Melbourne Convention Bureau(MCB)の設立60周年という節目の年でもあります。MCBは近年、単に「何件のイベントを誘致したか」だけではなく、イベントによって経済・社会・環境にどのような価値を残せるかを重視しています。2024/25年度には将来開催される230件のビジネスイベントを獲得。これらのイベントによって5万7,000人超の参加者と、推定2億7,000万豪ドルの経済効果が見込まれています。

MICE戦略

「イベント」と「都市の産業」をつなぐ

メルボルンのMICE戦略で注目したいのは、イベント誘致を観光だけで完結させていないことです。例えば、2026年にはAI・データセンター分野の国際イベント誘致を通じて、世界の意思決定者とビクトリア州の企業・産業・投資機会を結び付ける取り組みが進められています。

その誘致には、州政府、MCB、Business Events Australiaなどが連携しました。

つまり、「イベントを開催するために産業を使う」のではなく、「産業を成長させるためにイベントを使う」。この発想が、メルボルンのMICE戦略を理解する重要なポイントです。

注目施設

Melbourne Convention and Exhibition Centre(MCEC)

メルボルンMICEの中心となるのが、ヤラ川沿いのSouth Wharfに位置する**Melbourne Convention and Exhibition Centre(MCEC)**です。大型展示会から国際会議まで対応できる施設ですが、特に注目したいのがサステナビリティへの取り組みです。

MCECは世界で初めて6 Green Starの環境評価を受けたコンベンションセンターで、EarthCheckでもPlatinum認証を取得しています。さらに2025年には、施設運営に使用する電力を100%再生可能エネルギー化。当初掲げていた2028年の目標を3年前倒しで達成しました。

ここで重要なのは、環境配慮を「イベント主催者が追加料金を払って選ぶオプション」にしないことです。会場そのものをサステナブルにする。

そうすることで、そこでイベントを開催する主催者も自然に環境負荷を下げられる。これは今後のMICE施設を考える上で非常に重要な考え方です。

メルボルンがMICE都市として強い5つの理由

① 都市そのものが「イベント文化」を持っている

メルボルンでは、MICEだけでなくスポーツ、文化、音楽など年間を通じて多様なイベントが開催されています。そのため、ホテル、飲食、交通、イベント事業者など、都市側にイベントを受け入れるノウハウが蓄積されています。

「イベントがあることが日常」になっている都市。

これはMICE誘致において大きな強みです。

② CVBがイベント誘致を専門的に支援

Melbourne Convention Bureauは、国際会議やインセンティブ、企業イベントについて、誘致活動から開催支援、マーケティング、パートナー連携まで幅広くサポートしています。

2026年にはMCBが60周年を迎えました。半世紀以上にわたって蓄積された誘致ノウハウそのものが、メルボルンの競争力になっています。

③ MICEと地域産業を結び付ける

AI、エネルギー、医療、ライフサイエンスなど、メルボルンが強みを持つ産業・研究分野と国際会議を結び付けています。実際に2026年7月には、ライフサイエンス分野の国際会議の誘致も発表されています。

イベント参加者を単なる「来訪者」にするのではなく、企業、大学、研究機関、投資家をつなぐ存在として考える。この発想は、前回取り上げたシンガポールとも共通しています。

④ サステナビリティを都市レベルで考える

メルボルンではMCECだけでなく、都市全体でサステナブルなMICEを支える環境整備が進められています。

例えば、街を象徴するトラムには再生可能エネルギー由来の電力が活用されており、MCBもイベント主催者向けにサステナビリティに関するツールや情報を提供しています。「環境に優しいイベントを開催してください」と主催者に求めるだけではなく、環境に優しいイベントを開催しやすい都市をつくる。

この違いは非常に大きいでしょう。

⑤ MICEそのものを「商談の場」にする

メルボルンでは毎年、アジア太平洋地域を代表するMICE商談会**AIME(Asia Pacific Incentives and Meetings Event)**が開催されています。

2026年のAIMEでは766の出展者と1,500人の審査済みバイヤーが参加し、約2万5,000件の商談が予定される規模へ成長しました。

つまりメルボルンは、MICEを誘致するだけでなく、「MICE業界そのものが集まる都市」になっているのです。これは非常に強いブランドになります。

BizMICE Insight

日本が学べるのは「イベントのKPI」かもしれない

メルボルンの事例から日本が学べる最大のポイントは、イベントの成功を「来場者数」だけで評価しないことです。

例えば1万人が参加した国際会議があったとします。

従来であれば、

  • 来場者数
  • 宿泊者数
  • 消費額
  • 満足度

などが主要な成果指標になるでしょう。もちろん、それらも重要です。

しかし、これからはさらに、

  • 何件の商談が生まれたか
  • 地元企業と海外企業が何社つながったか
  • 新しい研究プロジェクトが始まったか
  • 地域にどんな知識が残ったか
  • 環境負荷をどれだけ減らせたか
  • 地域社会にどんな価値を残したか

まで考える必要があります。

つまり、「何人集めたか」から「何を生み出したか」へ。

Destination Watchでこれまで見てきた世界のMICE先進都市にも、この変化は共通しています。

Destination Watch Score

評価項目評価
国際競争力★★★★★
国際会議★★★★★
展示会★★★★★
インセンティブ★★★★★
産学連携★★★★★
サステナビリティ★★★★★
日本が学べる度★★★★★

日本との比較

項目メルボルン日本
MICE戦略経済・社会・環境へのインパクト重視誘客・経済効果を重視するケースが多い
強み研究・産業・イベント文化技術力・安全性・地域資源
誘致体制MCBを中心とした専門的支援国・自治体・CVB等が推進
サステナビリティ会場・都市双方で推進都市・施設によって差
今後のポイント高付加価値イベントの獲得MICEと地域産業の連携強化

編集部コメント

ラスベガスは「MICEを巨大産業にした都市」。シンガポールは「MICEを国家戦略にした国」。そしてメルボルンは、「MICEが都市に何を残すか」を追求する都市と言えるかもしれません。

世界のMICE競争では、大きな会場を持つことだけでは差別化が難しくなっています。

むしろ問われているのは、「なぜ、そのイベントをこの都市で開催する必要があるのか」。

日本にも、東京のテクノロジー、大阪のライフサイエンス、名古屋のモビリティ、各地方の食・文化・大学・研究機関など、世界の人々が集まる理由になり得る資産があります。

それらとMICEをどう結び付けるか。

世界から選ばれるMICE都市をつくるヒントは、会場の中ではなく、その街が持つ産業や人、知識の中にあるのかもしれません。