Destination Watch Vol.9で取り上げるのは、オーストリアの首都ウィーンです。

音楽、芸術、歴史的建築――。

観光都市としてのイメージが強いウィーンですが、MICE業界では世界を代表する国際会議都市として知られています。そして、その実力を示す数字が発表されています。

2025年、ウィーンで開催された会議・企業ミーティングは7,196件。参加者数は794,812人、Meetingによる宿泊は2,545,348泊に達し、いずれも過去最高水準を記録しました。さらに、Meetingがオーストリア全体にもたらしたGDPへの寄与額は約17億ユーロ

Meeting産業によって年間約19,300人分の雇用が支えられたとされています。つまりウィーンにとってMICEは、単なる「観光客を呼ぶ手段」ではありません。都市経済を支える一つの産業になっているのです。

MICE戦略

「国際会議」を都市の成長エンジンにする

ウィーンのMICEを考えるうえで、特に注目したいのが国際会議の価値です。2025年に開催された7,196件のMeetingのうち、国際会議は853件。全Meetingに占める割合は約12%にすぎません。ところが、この国際会議だけで約156万泊を生み出しています。

さらにMeeting全体が生み出した約17億ユーロのGDP寄与のうち、国際会議によるものは約8.28億ユーロに達しました。

つまり、

「たくさんイベントを開催する」だけではなく、
「都市へのインパクトが大きいイベントを誘致する」。

ここにウィーンのMICE戦略の特徴があります。

2026年も巨大イベントが続々

この勢いは2026年も続いています。ウィーンでは2026年だけで、1,000人以上が参加するMeetingが約60件予定されています。

例えば、

  • European Congress of Radiology:約22,400人
  • European Geosciences Union General Assembly:約20,000人
  • High End Vienna:約20,000人
  • ViennaUP:約15,000人
  • European Academy of Dermatology & Venereology:約17,000人
  • EURETINA:約10,000人
  • Enlit Europe:約12,000人

など、1万人規模のイベントが年間を通じて開催されます。さらに、現在開催中の25th International Congress on Byzantine Studiesにも約1,500人が参加予定です。ウィーンでは医療、科学、テクノロジー、人文科学、企業イベントまで、幅広い分野の国際会議が都市の年間カレンダーを形成しています。

注目施設

Austria Center Vienna

ウィーンを代表する大型国際会議施設の一つが**Austria Center Vienna(ACV)**です。European Congress of RadiologyやEuropean Geosciences Union General Assemblyなど、数万人規模の大型国際会議にも利用されています。

しかし、ウィーンの面白さは巨大コンベンションセンターだけに依存していないことです。VIECON – Vienna Congress & Convention Center、HOFBURG Vienna、ホテル、大学など、多様な施設がMeetingの舞台になります。

2025年には、大学だけでも516件の会議が開催されました。そのうち224件が国際会議です。「都市に存在するさまざまな施設をMICEインフラとして活用する」。この発想が、ウィーンの受入能力を高めています。

ウィーンがMICE都市として強い5つの理由

① 国際会議を呼べる「知」の集積

国際会議では、単に大きな会場があればいいわけではありません。医学、科学、テクノロジー、経済など、その分野を代表する大学・研究機関・企業・専門家が存在することが誘致競争では重要になります。

ウィーンでは大学も積極的に国際会議の開催地として活用されています。都市の「知的資産」がMICE誘致力になっているのです。

② Vienna Convention Bureauによる専門的な誘致

Vienna Convention Bureauは1969年に設立され、国際会議や企業Meetingの誘致を専門的に行っています。会場探しやホテル、開催支援などの無料サービスも提供し、主催者をサポートしています。50年以上蓄積してきた誘致ノウハウそのものが、ウィーンの競争力です。

③ MICEへの「公的支援」

さらに興味深いのがVienna Meeting Fundです。ウィーンでは国際的なMeetingを誘致するため、一定の条件を満たすイベントに資金面での支援を行っています。

最大支援額は1イベント6万ユーロ。しかも満額を受けるためには、Green MeetingまたはÖkoEventとしての認証が必要です。

つまり、MICE誘致政策とサステナビリティ政策をセットにしている。ここも日本が参考にできるポイントでしょう。

④ 「会議」と「滞在」をセットで考える

2025年、Meeting参加者による宿泊は約254万泊。これはウィーン全体の宿泊の約8泊に1泊に相当します。MICE参加者は、会議に参加して、ホテルに泊まり、レストランを利用し、交通機関を使い、文化や観光を楽しみます。

つまりMICEの価値は「会場売上」だけではありません。都市全体へ消費を広げる力があります。

⑤ 世界ランキングだけを追わない

ウィーンは国際的なMeeting Destinationランキングでもトップクラスに位置しています。2025年実績を対象としたランキングではUIAで世界1位、ICCAで世界4位となりました。

しかし重要なのは順位そのものではありません。ウィーンが公表しているMeeting統計では、参加者数、宿泊数、GDPへの寄与、税収、雇用まで把握しています。

BizMICE Insight

日本が学ぶべきは「MICEの価値の見える化」

ウィーンの事例で特に注目したいのは、Meeting産業の成果を非常に具体的な数字で説明していることです。

2025年実績で見ると、

7,196件のMeeting

約79万人が参加

約254万泊を創出

GDPに約17億ユーロ貢献

約19,300人分の雇用を支える

という流れが見えます。これは非常に重要です。日本でもMICEについて、「海外から人を呼べる」「地域活性化につながる」「経済効果が大きい」と説明されることは少なくありません。

しかし、さらに一歩踏み込み、「イベント1件を誘致すると、その街に何が起きるのか」を数字で説明できれば、MICE政策への投資判断も大きく変わるはずです。

会場だけを見るのではなく、ホテル、飲食、交通、小売、雇用、税収、そして地域産業まで見る。MICEを都市の成長産業として数字で可視化すること。ここに、ウィーンから日本が学べる大きなヒントがあります。

Destination Watch Score

評価項目評価
国際競争力★★★★★
国際会議★★★★★
企業Meeting★★★★★
都市経済への波及★★★★★
誘致体制★★★★★
サステナビリティ★★★★★
日本が学べる度★★★★★

日本との比較

項目ウィーン日本
MICEの位置付け都市経済を支える産業観光・地域振興との連携が中心
強み国際会議・研究機関・文化産業集積・技術・文化・安全性
誘致Convention Bureau+基金国・自治体・CVB等
KPI宿泊・GDP・税収・雇用まで測定経済波及効果等を地域ごとに測定
今後のポイント高付加価値Meetingの継続誘致MICE価値のさらなる可視化

編集部コメント

メルボルンが「MICEが都市に何を残すか」を追求する都市なら、ウィーンは、「MICEが都市にもたらす価値を、数字で証明している都市」と言えるでしょう。

7,196件という開催件数も impressive ですが、より重要なのは、その先にある約254万泊、約17億ユーロのGDP寄与、約19,300人分の雇用です。日本のMICEも、イベントの開催件数や参加人数だけでなく、「そのイベントが地域に何を生み出したのか」まで可視化していく。

そうなれば、MICEは「イベント・観光政策」から、より明確な都市の成長戦略へと進化していくのではないでしょうか。