イベントの価値は、会場の中だけで生まれるのでしょうか。参加者が会場で楽しみ、終了したら帰る。もちろん、それだけでもイベントは成立します。しかし世界には、イベントそのものが「その街を訪れる理由」になり、地域のブランドや観光、経済にまで大きな価値を生み出している例があります。

その代表格が、ドイツ・ミュンヘンで開催される**Oktoberfest(オクトーバーフェスト)**です。巨大なビールテント、伝統衣装、音楽、料理、パレード。世界的に知られるイベントですが、その本質は単なる「ビール祭り」ではありません。

地域の文化そのものをイベント体験へ変え、世界中から人を呼び込んでいることに大きな特徴があります。今回はOktoberfestから、企業イベントやMICE、地域イベントにも応用できる**「イベントを地域のブランド資産へ育てる方法」**を考えます。

Oktoberfest(オクトーバーフェスト)とは?

Oktoberfestの始まりは1810年。バイエルン王国の皇太子ルートヴィヒとテレーゼ王女の結婚を祝う催しが、その起源とされています。

現在ではミュンヘンを代表する世界的イベントとなり、例年、開催期間中には世界各国から数百万人規模の来場者が訪れます。会場となる「テレージエンヴィーゼ」には巨大なビールテントやアトラクションが並び、地元ブルワリーのビール、バイエルン料理、音楽、民族衣装などを楽しむことができます。

しかし注目したいのは、その規模ではありません。「ミュンヘンらしさ」がイベントのあらゆる場所に組み込まれていることです。

世界中から人が集まるのに、「ローカル」を薄めない

イベントが大きくなると、多くの人に受け入れられるよう内容を一般化したくなります。しかしOktoberfestは逆です。

バイエルンのビール。

地域の料理。

伝統的な音楽。

「レーダーホーゼン」や「ディアンドル」といった民族衣装。

地元文化を前面に押し出しています。つまり、グローバルなイベントだからこそ、徹底的にローカルである。ここに大きなヒントがあります。

世界中どこでも体験できるイベントでは、「その場所へ行く理由」が弱くなります。その地域でしか食べられないもの、その土地だから成立する演出、その地域の人との交流。イベントに地域固有の文化を組み込むことで、開催地そのものがコンテンツになります。

「見る文化」ではなく「参加する文化」に変える

Oktoberfestでは、地域文化を展示物として見せるだけではありません。参加者自身が伝統衣装を着たり、テーブルを囲んだり、音楽を楽しんだりすることで、その文化の中に入っていきます。

ここが非常に重要です。例えば地域の伝統工芸品を展示するだけなら、「地域文化を見るイベント」です。しかし、参加者が実際につくってみる。

食べてみる。

着てみる。

地元の人と話してみる。

そうすることで、「地域文化を体験するイベント」へ変わります。企業イベントでも同じです。企業理念をパネルで説明するのではなく、それを感じられる体験をつくる。新しいブランドメッセージを映像で流すだけではなく、参加者自身が行動するプログラムを用意する。「伝える」から「体験してもらう」へ。

Oktoberfestは、その重要性を教えてくれます。

飲食は「付帯サービス」ではなくコンテンツ

企業イベントでは、飲食を「休憩時間に提供するもの」と考えてしまうことがあります。しかしOktoberfestでは、飲食そのものがイベントの中心的な体験です。

何を食べるのか。

何を飲むのか。

どんな器で提供するのか。

どんな空間で誰と食べるのか。

そのすべてがイベント体験を構成しています。これはMICEにも応用できます。例えば地方都市でカンファレンスを開催するなら、どこにでもあるケータリングではなく、地域の食材を取り入れる。懇親会では地元の料理人や生産者に参加してもらう。料理の背景にあるストーリーも伝える。そうすれば、食事の時間そのものが開催地を知るコンテンツになります。「何を食べてもらうか」もイベント企画の一部なのです。

会場だけで経済効果を終わらせない

大規模イベントには、多くの人が移動します。すると会場以外でも、

宿泊する。

電車やタクシーを利用する。

レストランへ行く。

買い物をする。

観光する。

といった消費が発生します。つまりイベントは、地域に人を呼び込む「入口」になります。重要なのは、その来場者を会場だけで完結させないことです。例えばMICEなら、イベント前日に地域ツアーを実施する。終了後に飲食店を紹介する。参加者限定の街歩きプログラムを用意する。地域の店舗と連携した特典を提供する。こうした仕掛けによって、イベント参加者を「地域の来訪者」へ変えることができます。

地元企業を「スポンサー」ではなく「仲間」にする

イベントと地域企業の関係というと、スポンサー協賛を思い浮かべることが多いでしょう。

ロゴを掲載する。

ブースを提供する。

協賛金をもらう。

もちろん、それも重要です。しかし、地域に根付くイベントを育てるには、さらに一歩踏み込んだ関係が必要です。飲食店、ホテル、交通事業者、商業施設、観光施設、生産者などを、「イベントを一緒につくるパートナー」として巻き込むことです。

地域の企業がイベントの成功によってメリットを得られれば、「地域全体でイベントを育てる」という循環が生まれます。これは地方MICEを考えるうえでも重要なポイントでしょう。

「毎年行きたい」をつくる

単発イベントでは、「今年どう成功させるか」が中心になります。しかし、長く続くイベントでは違います。「来年も来たいと思ってもらえるか」が重要になります。

そのためには、すべてを毎年変える必要はありません。むしろ、変わらないものと、変わるものを両方つくることが重要です。毎年楽しめる定番の体験がある。一方で、今年しか体験できない企画もある。

この組み合わせが、「またあの場所へ行きたい」という気持ちを生み出します。企業の周年イベント、ユーザーカンファレンス、展示会、社内イベントなどでも同じです。

毎年ゼロから企画するのではなく、イベントそのものを「ブランド」として育てていく視点が必要です。

日本企業・地域が取り入れたい5つのポイント

① 「その場所だからできる体験」を入れる

地域の食、文化、人、産業など、開催地ならではの要素をイベントに組み込みます。

② 地域文化を「見る」から「体験する」へ変える

展示だけでなく、食べる、つくる、着る、話すなど、参加者自身が関われるプログラムにします。

③ 飲食も重要なコンテンツとして設計する

料理やケータリングを単なるサービスではなく、イベントや開催地のストーリーを伝える体験として考えます。

④ 会場の外まで参加者導線を設計する

宿泊、飲食、観光、交通などとイベントをつなぎ、地域全体へ人の流れを広げます。

⑤ 「毎年行きたいイベント」を目指す

定番コンテンツを資産として残しながら、毎年新しい体験を追加します。


編集部からの考察

これまで「世界のイベントから学ぶ」では、

Vol.1 ワールドカップから「体験価値」
Vol.2 SXSWから「街をイベント化する発想」
Vol.3 CESから「未来を体験させる展示」
Vol.4 Dreamforceから「コミュニティ」
Vol.5 Web Summitから「出会いの設計」
Vol.6 Tomorrowlandから「世界観と没入体験」
Vol.7 Burning Manから「参加者との共創」

を見てきました。そして今回のOktoberfestから見えてくるのは、イベントと「場所」の関係です。オンラインで世界中の人とつながれる時代だからこそ、「なぜ、わざわざその場所へ行くのか」という問いは、リアルイベントにとってますます重要になっています。

そこでしか食べられない。

そこでしか会えない。

そこでしか感じられない。

その土地だから成立する体験がある。

イベントがそれを生み出せれば、会場は単なる開催場所ではなくなります。そしてイベントへの参加が、街を訪れる理由になります。これからのMICEには、イベント会場の中だけを企画するのではなく、「イベント × 街 × 食 × 観光 × 人」まで一つの体験として設計する視点が、より重要になるのではないでしょうか。

イベントが人を呼び、人が街を知り、街の魅力が次の来訪につながる。Oktoberfestは、イベントを「一日の催し」ではなく、地域に蓄積されていくブランド資産へ育てる可能性を示しています。