【イベントDXの新常識 ~参加者体験から考えるイベントの未来~】第7回 AIがイベント運営をどう変えるのか ― 「準備する仕事」から「体験を設計する仕事」へ
「次のイベントまで、あと3か月。」
イベント担当者にとって、ここからが長い準備期間の始まりだ。会場を決める。登壇者を調整する。制作会社と打ち合わせる。スケジュールを作る。タスクを洗い出す。進行台本や運営マニュアルを作る。スタッフを手配する。
さらに定例会議を開き、議事録を作成し、決定事項を関係者に共有する。イベント当日は数時間でも、その裏側では数か月にわたって膨大な業務が発生している。しかし今、この「イベントの準備」のあり方を大きく変えようとしているのがAIである。
イベント運営には「考える前の仕事」が多すぎる
イベント担当者の仕事には、大きく二つの種類がある。
一つは、「どのようなイベントにするのか」を考える仕事。もう一つは、それを実現するための準備作業だ。例えば、参加者にどんな体験を提供するか、どのようなコンテンツを用意するか、どんな演出なら企業のメッセージが伝わるか。
こうした仕事には、人間の創造性や判断力が求められる。一方で、
- タスクの洗い出し
- スケジュール作成
- 会議の議事録作成
- ToDoの整理
- 進捗確認
- 運営マニュアル作成
- 情報の転記・更新
といった業務にも、多くの時間が使われている。本来、イベント担当者が時間を使うべきなのはどちらだろうか。AIが変えようとしているのは、まさにこの時間配分である。
「何をすればいいか分からない」をAIが支援する
特に企業イベントでは、イベント専任のプロデューサーがいるとは限らない。広報、人事、マーケティング、営業などの担当者が、通常業務と兼務しながらイベントを担当するケースも多い。
そこで最初に直面するのが、「そもそも何から始めればいいのか分からない」という問題だ。例えば、イベントカテゴリーは「社員表彰式」、開催日は「11月20日」、開催形式は、会場開催といった基本条件をAIに入力する。するとAIが、「開催日までに必要なタスク」「いつまでに何を決めるべきか」「誰が担当するべきか」といった準備項目を提示する。
これまで経験豊富なイベントプロデューサーが頭の中で行っていた作業を、AIがサポートする世界が現実になりつつある。
WBSは「作るもの」から「生成するもの」へ
イベント準備で特に時間がかかるのが、WBS(Work Breakdown Structure)の作成だ。会場、登壇者、制作物、音響・映像、ケータリング、スタッフ、受付、演出、搬入搬出……。
イベントの規模が大きくなれば、管理するタスクは100件、200件と増えていく。しかも、イベントの種類によって必要なタスクは異なる。株主総会と表彰式では、準備項目は同じではない。
ここでAIを活用すれば、イベント種類 × 規模 × 開催日 × 開催形式などの条件から、必要なタスクとスケジュールのたたき台を自動生成できる。イベント担当者はゼロからWBSを作るのではなく、AIが作った案を確認し、自社の事情に合わせて調整する。
仕事のスタート地点そのものが変わるのである。
定例会議の後に「仕事」が増える問題
イベント準備では、週1回などの定例会議が行われることも多い。しかし会議が終わったあとには、「議事録をまとめる」「決定事項を整理する」「担当者ごとにタスクを振り分ける」「スケジュールを更新する」といった作業が待っている。
つまり、会議をするほど管理業務が増えるという問題がある。ここでも生成AIは大きな力を発揮する。Web会議の内容からAIが議事録を生成し、「誰が」「何を」「いつまでに」行うのかを抽出する。
さらに、それぞれの内容を該当するタスクへ反映できれば、会議とプロジェクト管理を分断する必要がなくなる。
「遅れてから気付く」から「遅れる前に気付く」へ
イベントには開催日という絶対に動かせない期限がある。Webサービスの開発であればリリース日を延期できる場合もあるが、イベントはそうはいかない。開催日が10月1日なら、その日にすべてを完成させなければならない。
だからこそ、タスクの遅延は大きなリスクになる。従来は、担当者が進捗表を見ながら、「このタスク、遅れていませんか?」と確認していた。
しかしAIがプロジェクト全体を把握できるようになれば、
「このタスクが遅れると、来週の制作物入稿に影響します」
「このままでは開催日までに間に合わない可能性があります」
といった予測も可能になっていく。イベント管理は、**「遅れを確認する」から「遅れを予測する」**へ変わっていく。
運営マニュアルや進行台本もAIが作る時代へ
イベント直前になると、さらに大きな仕事が待っている。運営マニュアルや進行台本の作成だ。受付開始時間。登壇者の入り時間。スタッフ配置。音響・照明のキュー出し。休憩時間。搬入・搬出計画。
これまでプロデューサーやディレクターが経験をもとに作成してきた資料も、イベント情報がデータ化されればAIによる生成が可能になる。
例えば、イベントのスケジュール、会場情報、スタッフ情報、登壇者情報、各タスクの内容をAIが参照し、運営マニュアルのたたき台を作成する。担当者はそれを確認・修正する。「ゼロから作る」仕事が、「AIが作ったものを判断する」仕事へ変わっていく。
AIはイベントプロデューサーを不要にするのか
では、AIが進化すればイベントプロデューサーは必要なくなるのだろうか。むしろ逆である。AIが得意なのは、
「整理する」
「生成する」
「探す」
「予測する」
といった仕事だ。一方、
「参加者に何を感じてほしいのか」
「この企業らしいイベントとは何か」
「どんな演出なら人の心を動かせるのか」
といった問いに唯一の正解はない。
ここには、人間の創造性や感性、コミュニケーション能力が必要になる。AIによって作業時間が減れば、人間はより多くの時間を「体験を考えること」に使える。AIはイベントプロデューサーを置き換えるものではなく、イベントプロデューサーの能力を拡張する存在になっていく。
イベント担当者の役割が変わる
これまでのイベント担当者は、「大量のタスクを管理する人」になりがちだった。
しかしAI時代には、「参加者にどんな体験を提供するかを設計する人」へと役割が変わっていくだろう。
AIがスケジュールを作る。
AIが議事録を作る。
AIがタスクを整理する。
AIが遅延を知らせる。
AIが運営マニュアルのたたき台を作る。
その上で、人間は判断し、創造する。これこそが、AI時代のイベントDXが目指す姿なのではないだろうか。
編集部より
AIによるイベントDXの本当の価値は、「人を減らすこと」だけではありません。これまでイベント担当者が準備や管理に費やしていた時間を減らし、その時間を企画や参加者体験の向上へ振り向けることにあります。
イベント運営の経験が少ない担当者でも、AIの支援を受けながら一定の品質でプロジェクトを進められるようになれば、イベント開催のハードルそのものも下がっていくでしょう。イベントDXは、「デジタル化」の次の段階へ。
AIと人がそれぞれの得意分野を担う、新しいイベント運営が始まろうとしています。
次回は、**「イベント運営の属人化をどうなくすか」**をテーマに、担当者個人に蓄積されてきた経験やノウハウを、組織の資産へ変える方法を考えます。
MICE Joyで実現するポイント
AIがイベント準備を支援し、「考える時間」を増やす
MICE Joyでは、イベントプロジェクト管理にAIを組み込み、イベント担当者の準備・管理業務を効率化する仕組みを進めています。代表的なのが、WBSのAI自動生成です。
イベントの種類や開催日などの条件を入力すると、開催までに必要となるタスクやスケジュールをAIが生成。イベント担当者は、ゼロからタスクを洗い出すのではなく、生成された内容をベースにプロジェクトをスタートできます。
また、イベントプロジェクトに必要な情報をMICe Joy上に集約することで、
- AIによるWBS・スケジュール生成
- タスク・担当者・期限の一元管理
- 進行中・開始予定・終了予定タスクの把握
- 遅延タスクの確認
- 運営マニュアルのAI生成
- 定例会議の議事録とプロジェクト情報の連携
など、イベント準備全体を一つの環境で管理することを目指しています。さらに、Web会議で生成された議事録をMICe Joyに取り込み、会議で議論された内容をAIが関連するタスクへ反映する仕組みも開発を進めています。
目指すのは、「イベント担当者が管理作業に追われない世界」です。
AIに任せられる仕事はAIへ。
人は、企画、演出、コミュニケーション、そして参加者体験の設計へ。
MICE Joyは、イベント担当者が「準備する人」から「イベントをプロデュースする人」へ変わるためのイベントDX基盤を目指しています。







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