【経営を変えるインセンティブトラベル戦略 Vol.7】インセンティブトラベルは誰を選ぶべきか?―「トップ営業だけ」から変わる報奨制度
「今年、最も売上を上げた営業担当者10名を海外旅行へ招待する。」
インセンティブトラベルと聞いて、まず思い浮かぶのはこうした制度かもしれません。成果を上げた人を称える。そして、その姿を見た周囲の社員が「来年は自分も」と奮起する。非常に分かりやすい仕組みです。
しかし、インセンティブトラベルを営業戦略だけでなく、人事・組織戦略として活用するのであれば、一つ考えたいことがあります。本当に「売上トップの人」だけを選べばいいのでしょうか。今回は、インセンティブトラベルの効果を組織全体へ広げるための「参加者の選び方」を考えます。
「成果上位者だけ」の制度が持つ強さ
もちろん、トップパフォーマーを対象にする制度には大きな意味があります。誰が対象になるのかが明確で、「成果を出せば、特別な体験が待っている」という分かりやすいメッセージを組織へ発信できるからです。
特に営業組織では、
- 売上
- 契約件数
- 粗利益
- 新規顧客獲得数
- 目標達成率
など、成果を数値化しやすいため、インセンティブ制度との相性が非常に良いと言えます。Vol.2で紹介したような「President’s Club」型の仕組みも、その代表的な考え方です。ただし、ここには一つ課題があります。
「どうせ自分には無理」と思わせていないか
毎年同じトップ営業が表彰されている組織を想像してみてください。上位10人は、「来年も選ばれよう」と高いモチベーションを維持できます。
一方、100位の社員はどうでしょう。トップ10との差があまりに大きければ、「自分には関係のない制度だ」と感じてしまう可能性があります。これでは、本来は組織全体を動かすはずのインセンティブ制度が、ごく一部の社員だけのものになってしまいます。
インセンティブ設計で重要なのは、トップ層を称えるだけでなく、より多くの社員に「自分にもチャンスがある」と感じてもらうことなのです。
「絶対評価」から「成長評価」へ
そこで取り入れたいのが、成長率という考え方です。例えば、
Aさん
売上:1億円 → 1億500万円
前年比:+5%
Bさん
売上:3,000万円 → 4,500万円
前年比:+50%
絶対的な売上額ではAさんが上ですが、成長という観点ではBさんが大きな成果を出しています。そこで、「年間売上トップ賞」だけでなく、「Growth Award」のような表彰カテゴリーを設けます。
すると、中位層や若手社員にもインセンティブトラベルを目指せる可能性が生まれます。これは組織全体のモチベーションを高めるうえで非常に重要です。
個人成果だけでなく「チームへの貢献」を評価する
もう一つ注目したいのが、チームへの貢献です。企業の成果は、一人のトップパフォーマーだけによって生まれているわけではありません。
営業担当者を支える営業企画、マーケティング、カスタマーサクセス、バックオフィスなど、多くの人が関わっています。
そこで、
- 他部署を積極的に支援した
- ナレッジ共有に貢献した
- 若手社員を育成した
- チーム全体の成果を高めた
といった行動も評価します。インセンティブトラベルを、「個人競争を促す制度」から「組織を強くする制度」へ。評価軸を変えることで、制度そのものが企業文化をつくる装置になります。
「企業の価値観を体現した人」を選ぶ
さらに面白いのが、企業のValueやPurposeと連動させる方法です。
例えば、
Customer First Award
Innovation Award
Teamwork Award
Challenge Award
など、自社が大切にしている価値観を表彰カテゴリーにします。社員は、「会社がどんな行動を評価しているのか」を表彰制度を通じて理解することができます。
つまり、インセンティブトラベルは単なる報奨制度ではなく、企業文化を浸透させるメディアにもなるのです。
これからの選抜基準「5つの軸」
インセンティブトラベルの対象者を、例えば次の5つの軸で設計することができます。
| 評価軸 | 評価するもの | 表彰例 |
|---|---|---|
| 成果 | 売上・利益・契約件数 | Top Performer |
| 成長 | 前年比・目標伸長率 | Growth Award |
| 挑戦 | 新規事業・新しい取り組み | Challenge Award |
| チーム貢献 | 育成・支援・ナレッジ共有 | Teamwork Award |
| 価値観 | Purpose・Valueの体現 | Culture Award |
こうすると、「売上トップでなければ参加できない」という制度から大きく変わります。組織のさまざまな場所で活躍する人にスポットライトを当てることができます。
個人」だけでなく「チーム」を招待する
もう一段進んだ設計が、チーム単位でのインセンティブです。例えば、「年間売上トップ営業」ではなく、「最も大きな成長を実現した営業チーム」を選びます。
すると、個人同士の競争だけでなく、「みんなで目標を達成しよう」という協力関係が生まれます。
特に、部門横断で仕事をする企業では、この考え方との相性が良いでしょう。営業だけではなく、企画、マーケティング、運営などを含むプロジェクトチームを対象にする方法も考えられます。
WORLD CASE STUDY
Salesforceに見る「選ばれること」そのものの価値
営業インセンティブの代表例として知られるのが、Salesforceなどグローバル企業で見られるPresident’s Club型の制度です。こうした制度で重要なのは、豪華な旅行だけではありません。「そのコミュニティに選ばれた」こと自体がステータスになることです。トップパフォーマーとして認められ、仲間や経営層と特別な時間を共有する。
その体験が、「来年もここに戻ってきたい」という次のモチベーションにつながります。一方で、自社へ導入する際には、単純に海外企業の制度をコピーするのではなく、「自社では、どんな人を称えたいのか」を考えることが重要です。
選抜基準は、その会社が社員に送るメッセージそのものだからです。
インセンティブは「旅行当日」から始まるのではない
ここが非常に重要です。例えば、2027年3月にハワイへ行くプログラムがあるとします。その効果が生まれるのは、2027年3月だけではありません。
前年4月に、「今年のTop Performerにはハワイで特別なプログラムを用意します」と発表した瞬間からインセンティブは始まっています。
目標を発表する。
途中経過を共有する。
候補者を称える。
参加者を発表する。
現地で特別な体験を提供する。
帰国後、その体験を社内へ共有する。つまり、目標設定 → 挑戦 → 選抜 → 体験 → 社内共有までの一年間すべてがインセンティブプログラムなのです。
編集部コラム
「誰を連れて行くか」は、「どんな会社をつくりたいか」
インセンティブトラベルの参加者を決めることは、単なる旅行参加者の選抜ではありません。売上トップだけを選べば、「成果を最も重視する会社」というメッセージになります。
成長した人を選べば、「挑戦を評価する会社」。
仲間を支えた人を選べば、「チームワークを大切にする会社」。
企業のValueを体現した人を選べば、「自社らしい行動を称える会社」。
インセンティブトラベルの選抜基準には、その企業の経営思想が表れます。だからこそ、人事部だけ、営業部だけで制度を考えるのではなく、経営戦略や企業文化と結び付けて設計することが重要です。
「誰を旅行へ連れて行くか」を考えることは、「自社は、どんな人を称える会社なのか」を考えること。その視点を持つと、インセンティブトラベルは単なる報奨旅行から、組織を変える経営施策へと進化していきます。







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