展示会に出展するとき、何を展示するでしょうか。商品。サービス。パネル。動画。パンフレット。もちろん、どれも必要です。

しかし、展示会の本当の目的は、「知ってもらうこと」なのでしょうか。その先には、「使ってみたい」「話を聞いてみたい」「買ってみたい」

そして観光なら、「ここへ行ってみたい」という行動があります。昨日9月24日、東京ビッグサイトで「ツーリズムEXPOジャパン2026」が開幕しました。

今年のテーマは、「進化する旅のカタチ」です。世界各地、日本全国の観光地が集まり、最新の観光情報だけでなく、体験型コンテンツ、伝統芸能、グルメなどを通じて「旅の今とこれから」を体験できるイベントになっています。

今回はこのイベントから、人を「知る」から「行動する」へ動かす展示会について考えてみます。

観光地ほど「説明するだけ」では伝わらない

例えば、ある地域をPRするとします。美しい海があります。美味しい料理があります。歴史ある街並みがあります。素晴らしい温泉があります。

それをパネルにして、「ぜひ○○県へお越しください」と書く。間違いではありません。しかし問題があります。似たような情報が世の中に大量にあることです。

Webサイト。Instagram。YouTube。TikTok。旅行予約サイト。検索すれば、観光情報はいくらでも出てきます。そう考えると、わざわざリアルなイベント会場まで来てもらって、Webサイトでも読める情報をパネルで説明するだけでは少しもったいない。

リアルイベントには、リアルだからこそできる役割があります。

「地域を説明する」のではなく「少しだけ旅してもらう」

ツーリズムEXPOジャパンの面白さは、ここにあります。公式サイトでは、世界各国・地域、日本全国の観光情報だけでなく、

体験型コンテンツ
伝統芸能
グルメ

などを「五感で味わえる」イベントとして紹介しています。つまり、

北海道について説明する。

沖縄について説明する。

台湾について説明する。

インドネシアについて説明する。

だけではない。東京ビッグサイトにいながら、その場所を少し体験してもらう。という発想です。これを展示会の言葉に置き換えると、「説明」から「疑似体験」へという変化です。

人は「情報」ではなく「体験」で欲しくなる

例えば旅行先の料理について、「この地域には美味しい郷土料理があります」という文章を読む。それと、実際に香りを感じる。食べてみる。現地の人から話を聞く。では、印象がまったく違います。

食べた瞬間、「これ、現地で食べてみたい」と思うかもしれません。伝統芸能を見る。音楽を聞く。民族衣装を着る。地域の人と話す。VRで景色を見る。

こうした小さな体験が、

認知

↓

興味

↓

体験

↓

行ってみたい

↓

検索

↓

予約

という行動につながっていきます。イベントは、この**「体験」**を途中に入れられるメディアなのです。

ブースは「小さな広告」ではなく「小さな世界」

これは企業の展示会にもそのまま当てはまります。

展示会ブースを、「商品を説明する場所」として考えると、商品展示。大型パネル。モニター。カタログ。商談席。という構成になりがちです。

しかし、「商品を使った世界を体験する場所」として考えると、ブースの設計は変わります。例えばオフィス家具メーカーなら、椅子を並べるのではなく、「2030年のオフィス」をつくる。

食品メーカーなら、商品を並べるのではなく、「その商品がある食卓」をつくる。

イベントシステム会社なら、機能一覧を説明するのではなく、来場者自身に受付から入場まで体験してもらう。

つまり、商品を見る場所から、商品がつくる未来を体験する場所へ。変えるのです。

439件のブースイベントが示すもの

今回のツーリズムEXPOジャパンでは、公式のブースイベント検索に439件が掲載されています。内容を見ると、観光プレゼンだけではありません。料理体験、AIアシスタントのデモ、スタンプラリー、地域紹介など、さまざまな参加型コンテンツがあります。

ここには重要なヒントがあります。巨大な展示会そのものが一つのコンテンツなのではなく、ブース一つひとつに「参加する理由」がある。ということです。

「何か面白そう」

↓

近づく。

↓

体験する。

↓

スタッフと会話する。

↓

その地域・企業を知る。

この流れがつくられています。

展示会で最も重要なのは「立ち止まる理由」

展示会場を歩いている人を想像してください。右にもブース。左にもブース。正面にもブース。大量の情報があります。そこで最初に起こる競争は、商品の比較ではありません。

その前に、「立ち止まってもらえるか」という競争があります。だからこそ、「弊社の商品をご紹介します」では弱い。体験。デモ。ゲーム。試食。実演。診断。ワークショップ。写真を撮りたくなる空間(フォトブース)。人との会話。

こうした、「ちょっとやってみたい」をつくることが重要になります。

「体験」は商談への入口にもなる

BtoB展示会では、「体験型コンテンツなんて必要なの?」と思うかもしれません。

しかし、むしろBtoBだからこそ有効です。いきなり、「お名刺をいただけますか?」と言われるより、まず商品を触る。診断をする。デモを見る。スタッフと話す。

その結果、「これ、うちでも使えるかもしれない」と思ってもらう。その後で商談する。つまり、体験 → 会話 → 課題発見 → 商談という流れです。

体験は単なる「賑やかし」ではありません。商談を自然に始める装置にもなります。

BtoBとBtoCを分けないイベント

ツーリズムEXPOジャパン2026には、もう一つ興味深い特徴があります。

9月24・25日は業界・プレス向け。

9月26・27日は一般向けです。

業界日は、商談する場所。

一般日は、生活者へ魅力を伝える場所。

同じイベントが、BtoBとBtoCという二つの役割を持っています。これは企業イベントでも参考になります。例えば新商品発表会なら、午前はメディア。午後は取引先。翌日は一般ユーザー。と設計する。

一度つくったイベント空間を、異なるターゲットとの接点として活用する。イベント投資の効率を考える上でも面白い発想です。

「旅」そのものも細分化している

さらに今回、特に注目したいのが「TEJコレクション」です。2026年は、アドベンチャーツーリズム。スポーツツーリズム。星空ツーリズム。コンテンツツーリズム。クルーズ。ワーケーション。そして新たに、

ウェルネスツーリズム
ガストロノミーツーリズム

などがテーマとして設定されています。つまり、「旅行が好きな人」という巨大なターゲットだけを見ていない。何をしたい人なのかまで細分化しています。

これは企業イベントでも非常に重要です。「会社員」「経営者」「マーケター」だけでは粗すぎる。その人が今、何に興味を持っているのか。そこからコンテンツを設計する。イベントのパーソナライズにもつながる考え方です。

日本企業が取り入れたい5つのポイント

1.「何を説明するか」から考えない

まず、「何を体験してもらうか」を考えます。

2.ブースに「立ち止まる理由」をつくる

見るだけではなく、触る・試す・選ぶ・参加する要素を入れます。

3.商品ではなく「商品がある世界」を見せる

スペックよりも、利用後の体験を可視化します。

4.体験から商談へつなぐ

体験を単独で終わらせず、体験 → 会話 → 課題 → 商談まで設計します。

5.イベント後の「次の行動」を決めておく

検索する。資料を見る。問い合わせる。予約する。購入する。イベントの出口に、次のアクションを置きます。

編集部からの考察

観光という商品は少し特殊です。その場で、「沖縄を持って帰る」ことはできません。「フランスを試着する」こともできません。

だからこそイベントでは、本物の体験の一部を切り取って見せる必要があります。料理。音。文化。人。景色。ストーリー。それらを組み合わせ、「なんだか行ってみたい」という感情をつくる。

しかし、これは観光だけの話ではありません。企業の商品やサービスも同じです。展示会で、「弊社の商品にはこんな機能があります」と説明するだけではなく、「これを使うと、あなたの仕事はこう変わります」を体験してもらう。

リアルイベントの強みは、情報量ではありません。情報量ならWebの方が圧倒的に多い。リアルイベントの強みは、人の感情を動かし、その場で次の行動を生み出せることではないでしょうか。

だから展示会を企画するとき、「何を展示しよう?」の前に、こう考えてみる。「来場者に、帰るとき何をしたいと思ってもらうか?」「行ってみたい。」「使ってみたい。」「もっと知りたい。」「この会社と話してみたい。」

そこから逆算すると、展示会は単なる「展示する場所」から、人を次の行動へ動かす場所へ変わっていくのではないでしょうか。