【世界のイベントから学ぶ Vol.17】「また来たい」をどうつくる? グラストンベリーに学ぶ、イベントを文化に変える方法
イベントが終わった後、参加者に何を感じてもらいたいでしょうか。「面白かった」「勉強になった」「参加してよかった」。もちろん、どれも大切です。
しかし、継続的に開催するイベントであれば、もう一つ重要な感情があります。「来年も、またここに来たい」という気持ちです。イベントの成功を測る指標には、来場者数、満足度、商談件数などがあります。
しかし、イベントを長期的に成長させるためには、参加者がそのイベントに愛着を持ち、再び参加したいと感じることも重要です。今回取り上げるグラストンベリー・フェスティバルは、そのことを考えるうえで興味深い事例です。
1.50年以上続く、世界的な音楽フェスティバル
グラストンベリー・フェスティバルは、1970年に英国サマセット州で始まった音楽・舞台芸術の祭典です。現在では、音楽だけでなく、演劇、パフォーマンス、アート、社会的な活動など、多様な要素を持つイベントとして知られています。
ここで注目したいのは、その歴史の長さです。50年以上にわたってイベントが続いているということは、単に毎回出演者を集めて開催しているだけではありません。イベントそのものが、参加者にとって特別な意味を持つ存在になっていると考えられます。
もちろん、長く続いているからといって、すべての参加者が毎回戻ってくるわけではありません。しかし、長期にわたって支持されるイベントには、単発の話題性だけでは説明できない魅力があります。その一つが、イベント独自の文化です。
毎年のイベントを、もっと進化させる。運営ノウハウを次回に活かすMICE Joy。
2.参加者が求めるのは、出演者だけではない
音楽フェスティバルの集客を考えるとき、まず注目されるのは出演アーティストです。有名なアーティストが出演する。人気の楽曲が演奏される。そこでしか見られないライブがある。これらは強力な参加動機になります。
しかし、グラストンベリーのようなイベントでは、出演者以外にも多くの魅力があります。広大な会場を歩く。さまざまなステージを巡る。初めて見るパフォーマンスに出会う。友人とキャンプをする。知らない参加者と交流する。そこでしか味わえない雰囲気を楽しむ。
つまり、参加者は個別のコンテンツだけでなく、イベント全体で過ごす時間を体験しているのです。これは企業イベントでも重要な考え方です。
例えば、毎年開催する企業カンファレンス。有名な登壇者を招くことは、集客に効果的かもしれません。しかし、登壇者だけが参加理由になっていると、出演者やプログラムが変わったときに参加動機が弱くなる可能性があります。
一方、イベントそのものに魅力があれば、「あのイベントなら、今年も何か面白いことがあるはずだ」という期待が生まれます。個別のコンテンツへの期待から、イベントそのものへの期待へ。この変化が、継続的なイベントの価値を高めるのです。
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3.イベントを「文化」に変える3つの要素
グラストンベリーの歴史から、長く愛されるイベントには3つの要素があると考えられます。

① 変わらない理念がある
グラストンベリーでは、環境保護や社会貢献、多様な文化の尊重といった価値観が、長年にわたってイベントの重要な要素となってきました。例えば、環境負荷を減らす取り組みや、慈善団体との協力などです。
出演者やプログラムが変わっても、イベントが大切にする価値観は受け継がれています。企業イベントでも、毎回テーマを変えることはあっても、そのイベントが存在する理由まで変える必要はありません。「挑戦する人を応援する」「業界の未来をつくる」「新しい出会いを生み出す」
こうした理念が積み重なることで、イベントの個性が形成されます。
② 参加者が帰属意識を持てる
「このイベントに参加する人たちは、自分と同じ価値観を持っている」
そう感じられる場所には、特別な魅力があります。グラストンベリーでは、音楽を楽しむだけでなく、会場での共同生活や多様な文化体験もフェスティバルの一部です。
企業イベントでも、参加者同士が交流し、共通の関心や目標を見つけられるようにすることで、帰属意識を育てることができます。例えば、毎年同じイベントに参加するユーザー同士が顔見知りになる。前回のイベントで出会った人と、翌年また再会する。
こうした経験が積み重なれば、イベントは単なる情報収集の場ではなくなります。**「自分が所属しているコミュニティの大切な集まり」**へと変わっていくのです。
③ 毎回、新しい発見がある
一方で、毎年まったく同じ内容では、参加者の期待は薄れてしまうかもしれません。重要なのは、変わらない理念と、新しい体験を両立させることです。グラストンベリーでは、多数のステージやエリアでさまざまなジャンルのパフォーマンスが展開されてきました。英国のヴィクトリア&アルバート博物館も、その発展の歴史を記録しています。V&A
企業イベントでも、「このイベントらしさは変わらない。でも、今年は新しい発見がある」という期待をつくることが大切です。
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4.2026年は開催しない。それでもブランドが続く理由
ここで、今回のテーマに関係する興味深い事実があります。グラストンベリー・フェスティバルは、2026年には開催されません。これは人気がなくなったためではありません。
開催地である農場の土地を休ませ、自然環境を回復させるための休催年(Fallow Year)です。公式サイトでは、次回の開催を2027年6月23〜27日と案内しています。
ここから考えたいのは、イベントのブランド価値と開催頻度の関係です。通常、企業イベントでは開催回数を増やすことで、顧客との接点を増やそうと考えます。
しかし、回数を増やすことが常に正解とは限りません。企画の質が下がる。運営スタッフの負担が増える。参加者に新鮮さを提供できなくなる。
そうした状態で無理に開催を続ければ、かえってイベントの価値を損ねる可能性があります。グラストンベリーの休催は環境保全を目的とするものであり、集客のための希少性演出ではありません。
ただ、その事例からは、長く続けるためには、あえて開催しないという判断も必要になり得ることを学べます。イベントを単年度の売上や集客だけで評価するのではなく、長期的なブランド資産として捉える視点が重要なのです。
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5.「また来たい」は、当日だけでは生まれない
参加者が翌年も戻ってきたくなるためには、イベント終了後のコミュニケーションも重要です。例えば、イベントの余韻を残すコンテンツ。参加者の体験談。次回開催に向けた情報発信。コミュニティでの交流。
これらによって、イベントが開催されていない期間にも参加者との接点を維持できます。ここで前回のVol.15「Adobe MAXに学ぶ、参加者との関係を継続する仕組み」とつながります。
イベントを一日限りの出来事にしない。開催後も学びや交流を継続する。次回の開催に向けて期待を育てる。そして、また参加してもらう。

イベントを開催していない期間にも、参加者との関係を育てる。それが「毎年戻ってきたくなるイベント」をつくるための重要な要素です。
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6.企業イベントに応用するなら
例えば、毎年開催する企業のユーザーカンファレンスを考えてみます。初年度は、新製品の発表や導入事例の紹介を中心に開催したとします。参加者は300人。満足度も高く、イベントは成功しました。
では、翌年はどうするでしょうか。前年より有名な登壇者を呼ぶ。展示ブースを増やす。会場を大きくする。こうした施策も考えられますが、それだけでは毎年規模を拡大し続けなければならなくなります。
そこで、イベントそのものに「文化」をつくるという発想を取り入れます。例えば、次のような仕組みです。
| 取り組み | 目的 |
|---|---|
| 毎年共通のイベント理念を設定 | ブランドの一貫性をつくる |
| ユーザーによる事例発表 | 参加者を主役にする |
| 年間優秀ユーザー表彰 | 継続的な挑戦を称える |
| 参加者同士の交流会 | コミュニティを育てる |
| 毎年恒例の参加型企画 | 再訪したくなる楽しみをつくる |
| 新技術・新サービスの体験 | 毎回新しい発見を提供する |
こうした取り組みを積み重ねることで、イベントに独自の個性が生まれます。
参加者が、「今年もあの表彰が楽しみだ」「昨年知り合った人に会いたい」「今年は自分も発表してみたい」と思うようになれば、イベントへの参加理由は、単なる情報収集から変わっていきます。イベントに参加すること自体が、一つの価値になるのです。
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7.イベントを「ブランド資産」として評価する
企業イベントでは、どうしても単年度の成果に目が向きがちです。今年は何人集まったか。今年はいくら売上につながったか。今年の満足度は何点だったか。もちろん、これらは重要です。
しかし、継続開催するイベントでは、長期的な成果も評価する必要があります。例えば、次のようなKPIが考えられます。
| KPI | 測定する内容 |
|---|---|
| リピート参加率 | 過去の参加者が再び参加した割合 |
| 初参加者比率 | 新しい参加者を獲得できているか |
| 次回参加意向 | 翌年も参加したいと考える割合 |
| コミュニティ継続率 | 開催後も交流を続ける参加者の割合 |
| 自発的な推奨率 | 友人や同僚にイベントを勧めたい割合 |
| 参加者発信数 | SNSや口コミなどの自発的な発信 |
| ブランド想起率 | イベント名や主催企業が記憶されている割合 |
特に注目したいのが、リピート参加率と次回参加意向です。
例えば、今年の参加者が1,000人だったとして、そのうち400人が前年にも参加していれば、前年の参加者数を分母にした継続参加率とは別に、今年の参加者に占めるリピーター比率は40%となります。
このように、指標の定義を明確にして継続的に測定することで、イベントへの愛着が育っているかを把握しやすくなります。
ただし、リピーターが多ければよいというわけではありません。新しい参加者が増えなければ、コミュニティが閉鎖的になる可能性もあります。既存参加者が戻ってくることと、新しい参加者が入り続けること。この両立が重要です。
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8.イベントを文化にするには、運営の継続性も必要
長く愛されるイベントをつくるためには、参加者の体験だけでなく、主催者側の運営体制も重要です。例えば、毎年担当者が変わる企業イベント。前年の企画意図が分からない。過去の反省点が共有されていない。
サプライヤーとのやり取りが残っていない。準備スケジュールを毎回ゼロから作成している。こうした状態では、イベントのノウハウが蓄積されません。
継続的なイベントには、次のような仕組みが必要です。イベントの理念やコンセプトを残す。運営マニュアルを毎年更新する。過去の課題と改善内容を記録する。参加者の反応や成果を次回の企画に反映する。担当者が変わっても、同じ品質で運営できる体制をつくる。
AIによるタスク管理や運営マニュアルの生成などを活用すれば、こうした情報の蓄積や引き継ぎを効率化できます。
そして担当者は、毎年の運営作業を繰り返すだけでなく、イベントをどう進化させるかという企画に時間を使えるようになります。イベントの文化は、参加者の記憶だけでなく、主催者の組織にも蓄積されるものなのです。
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日本企業が取り入れたい5つのポイント
1.イベントの「変わらない理念」を決める
毎年テーマやプログラムが変わっても、開催する目的や大切にする価値観は一貫させる。
2.参加者が「帰ってきた」と感じられる仕組みをつくる
毎年恒例の企画や、参加者同士が再会できる場を用意する。
3.変わらない魅力と、新しい体験を両立させる
イベントらしさを維持しながら、毎回新しい発見を提供する。
4.イベント終了後も関係を継続する
コミュニティやコンテンツ配信を通じて、次回開催まで参加者との接点を育てる。
5.単年度の成果だけでなく、長期的なブランド価値を測る
リピート参加率や次回参加意向などを継続的に把握する。
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編集部からの考察
イベントを毎年開催することと、毎年参加したくなるイベントをつくることは、同じではありません。毎年開催していても、参加者にとっては毎回別のイベントかもしれません。
一方、イベントに独自の文化があれば、参加者はそこに戻ってくる理由を持つようになります。グラストンベリー・フェスティバルは、50年以上にわたり、音楽やアート、社会的な価値観を組み合わせながら発展してきました。そして2026年には、開催地の環境を守るため、あえて休催しています。
この事例から学べるのは、イベントを長く続けるためには、目先の集客や規模の拡大だけでなく、何を守り、何を進化させるのかという視点が必要だということです。
前回のVol.16では、参加者を「来場者」から「共創者」に変えることの重要性を取り上げました。今回は、その共創を長期的な関係へ発展させる話です。参加者がイベントの価値を一緒につくる。その体験が記憶に残る。翌年、また参加したくなる。
そして、新しい参加者を迎えながら、イベントの文化が育っていく。その循環が生まれたとき、イベントは単なる催しではなくなります。参加者にとって、毎年戻ってきたくなる大切な場所になるのです。これから継続開催するイベントを企画するとき、こんな問いを加えてみてはいかがでしょうか。
「このイベントには、来年も戻ってきたくなる理由があるだろうか?」その答えを考えることが、イベントを長く愛されるブランドへ育てる第一歩になるのではないでしょうか。
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