【Destination Watch Vol.16】ブリュッセルはなぜ世界中の国際会議を引き寄せるのか
ベルギーの首都、ブリュッセル。
チョコレート、ワッフル、ビール、美しいグランプラスなど、観光都市としての魅力を持つ一方、MICEの世界ではまったく異なる顔を持っています。それは、世界の政策、産業ルール、国際協力を議論する都市という顔です。
欧州連合(EU)の主要機関が集まり、その周囲には業界団体、国際NGO、企業の渉外部門、研究機関などが集積しています。そして2025年のUIA国際会議都市ランキングで、ブリュッセルは329件で世界2位。1位ウィーンの345件に次ぎ、3位ソウルの216件を大きく上回りました。
ここで注目したいのは、単なる開催件数ではありません。なぜ国際会議の主催者は、ブリュッセルに集まるのか。その理由を探ると、イベント会場やアクセスだけでは説明できない、MICE都市の新しい競争力が見えてきます。
1. 数字で見るブリュッセルのMICE競争力
◆UIA 2025年ランキング 世界2位 国際団体会議の開催都市
◆2025年対象会議数 329件 UIA集計基準
◆2025年の相談・依頼対応 598件 Convention Bureau実績
◆2025年の誘致候補案件 250件超 Convention Bureauの開拓活動
(出典:UIA 2025年ランキング、visit.brussels 2025年活動報告。)
興味深いのは、ブリュッセルが以前から高い順位を維持していることです。2024年のUIAランキングでは388件で世界1位。2025年にはウィーンに首位を譲ったものの、依然として世界トップクラスです。
なお、UIAとICCAは集計対象・基準が異なるため、両ランキングの順位や開催件数をそのまま比較することはできません。
2. MICE戦略|会議を誘致する前に、会議が必要な理由をつくる
一般的なMICE誘致では、まず都市の魅力を紹介します。会場があります。ホテルがあります。アクセスが便利です。食事も観光も楽しめます。もちろん、これらは重要です。
しかしブリュッセルには、それらに加えて大きな強みがあります。「この街でなければ会いにくい人がいる」ことです。例えば、欧州の環境規制に関する国際会議を開催するとします。
参加者が会いたいのは、業界の専門家だけではありません。政策立案に関わる人々、規制に対応する企業、関連団体、研究者なども重要です。ブリュッセルには、こうした関係者が集積しています。そのため、会議を開催すること自体に明確な理由が生まれます。
会場があるから会議を呼ぶのではなく、議論すべきテーマと関係者がいるから会議が集まる。この順番が重要なのです。
3. 「Association City」という独自の競争力
ブリュッセルの特徴を表すキーワードが、Association Cityです。国際団体や業界団体の活動拠点として強みを持つ都市、という意味です。
例えば、欧州全体に関わる業界団体がブリュッセルに拠点を置いている場合、定例会議、専門委員会、政策討論、会員向けセミナー、年次総会など、年間を通じてさまざまな会議需要が生まれます。
これは単発の大型イベントを誘致することとは違います。
国際団体の集積が生み出すMICEの循環
国際機関・業界団体が集積する
政策・産業・研究の議論が生まれる
国際会議・委員会・セミナーが開催される
人的ネットワークがさらに強化される
次の会議や新たな団体活動へとつながる
visit.brusselsも、国際団体に向けて、政策関係者へのアクセス、他団体との交流、国際的な情報発信などをブリュッセルの強みとして紹介しています。つまり、ブリュッセルでは国際団体の存在そのものが、継続的なMICE需要を生み出す仕組みになっているのです。
4. 注目施設|SQUARE Brussels Convention Centre
ブリュッセルの代表的な会議施設の一つが、SQUARE Brussels Convention Centreです。市内中心部のモン・デ・ザール地区に位置し、国際会議、企業イベント、業界団体の会合などに対応しています。
公式の収容人数資料によると、Grand Hall 1と2を合わせた面積は3,663㎡。着席宴会形式で最大2,360人の収容が可能です。特徴は、施設規模だけではありません。国際機関へのアクセスに加え、歴史的な街並みや文化施設にも近いことです。
会議を開催する。政策関係者と交流する。イベント終了後には市内で食事やネットワーキングを行う。こうした一連の体験を都市の中心部で設計できます。
5. ブリュッセルが世界有数のMICE都市である5つの理由
① 政策決定の中心地である
EUの主要機関が集まることで、政策・規制・産業動向に関する会議を開催する理由が生まれます。特に欧州市場を対象とする企業や団体にとって、ブリュッセルは重要な接点です。
② 国際団体が集積している
国際団体が日常的に活動しているため、定例会議から大型国際会議まで、継続的な需要が生まれます。
③ 会議の「中身」で都市を選んでもらえる
単なる施設比較ではなく、専門家、政策関係者、関連団体との接点を開催価値として提案できます。
④ Convention Bureauが人と組織をつなぐ
visit.brusselsのConvention & Association Bureauでは、誘致提案、関係者の紹介、イベントの成長支援、参加者受け入れなど、4つの無料支援プログラムを提供しています。
会場の紹介だけではなく、主催者が出会うべき相手との接点づくりまで支援する点が重要です。
⑤ 継続開催を重視している
2025年のvisit.brusselsの活動報告では、既存イベントの継続開催を促す取り組みも重視されています。
新しいイベントを誘致するだけでなく、一度開催したイベントに再び選んでもらうことが、安定したMICE市場を支えています。
6. BizMICE Insight|日本が学ぶべきは「会議の理由」をつくること
日本の都市が国際会議を誘致するとき、施設の規模やアクセス、観光資源は重要な訴求材料になります。しかしブリュッセルの事例を見ると、もう一つの考え方が見えてきます。「その都市に、どんな人や知識が集積しているか」をMICEの競争力にすること。
例えば、次のような展開が考えられます。
| 都市 | 活用できる集積・テーマ | MICEへの展開例 |
|---|---|---|
| 東京 | 政策・金融・企業本社 | 国際政策・ビジネス会議 |
| つくば | 研究機関・大学 | 科学技術・先端研究会議 |
| 神戸 | 医療・ライフサイエンス | 医療技術・研究交流 |
| 名古屋 | 自動車・製造業 | モビリティ・産業技術会議 |
| 広島 | 平和・国際協力 | 平和構築・国際対話 |
| 福岡 | スタートアップ | 起業家・投資家交流 |
重要なのは、単にその分野のイベントを開催することではありません。
その都市にいる専門家や企業、大学、行政、団体を結びつけ、**「ここで開催すると議論が深まる」**という価値をつくることです。
7. MICEのKPIも変わる
ブリュッセル型のMICE戦略を考えると、イベントの評価指標も変わってきます。従来の代表的なKPIは、開催件数、参加人数、宿泊数、経済効果などです。もちろん、これらは欠かせません。しかし、政策や産業との連携を重視するなら、次のような指標も考えられます。
- 政策・産業関係者との新規接点数
- 国際団体との継続的な連携件数
- 会議をきっかけとした共同研究・事業提携数
- 翌年以降の継続開催率
- 地域企業や大学の国際ネットワーク拡大
つまり、イベントで何人集めたかだけではなく、イベントを通じて何が動き始めたかを測るのです。
8. Destination Watch Score
編集部による定性的な評価です。公的な都市ランキングではありません。
| 評価項目 | 評価 |
|---|---|
| 国際団体の集積 | ★★★★★ |
| 政策・産業との連携 | ★★★★★ |
| 国際会議競争力 | ★★★★★ |
| 会議施設・都市アクセス | ★★★★☆ |
| Convention Bureauの支援 | ★★★★★ |
| 継続的なMICE需要 | ★★★★★ |
| 日本が学べる度 | ★★★★★ |
9. 日本との比較
| 項目 | ブリュッセル | 日本への示唆 |
|---|---|---|
| 誘致の核 | 国際機関・団体の集積 | 都市ごとの研究・産業集積を活用 |
| 会議の価値 | 政策関係者や専門家との交流 | 人的ネットワークを開催価値にする |
| 誘致支援 | 関係者紹介・イベント成長支援 | 会場紹介からネットワーク形成へ |
| 需要構造 | 国際団体の継続的な活動 | 定例会議・継続開催の開拓 |
| 成果指標 | 国際会議の誘致・継続 | 共同研究・商談・連携も可視化 |
編集部コメント
前回紹介したフランクフルトは、世界中の企業が集まり、商談や取引を生み出す都市でした。一方、今回のブリュッセルは少し違います。世界中の人々が集まり、政策や社会のルール、産業の未来を議論する都市です。
フランクフルトが「ビジネスが生まれる場所」だとすれば、ブリュッセルは「意思決定が生まれる場所」と言えるかもしれません。どちらにも共通しているのは、イベントが都市の既存の強みと結びついていることです。
会場があるからイベントを開催する。ではなく、その都市に集まるべき理由があるから、イベントが開催される。これは日本のMICE都市戦略にとって、非常に重要な視点ではないでしょうか。イベント誘致の競争力は、会場の広さだけでは決まりません。そこに誰がいるのか。何を議論できるのか。どんな新しい関係が生まれるのか。「この街で開催する意味」をつくること。ブリュッセルは、その強さを世界に示している都市なのです。







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