AIの普及によって、「イベント担当者の仕事は減るのか?」という議論があります。しかし、世界のMICE業界で起きているのは、少し違う変化かもしれません。

減っていくのは、スケジュール作成や情報整理、定型的な資料作成といった「作業」。その一方で重要になっているのが、誰を集め、どんな体験を提供し、どんな成果を生み出すのかを設計する仕事です。

10月にラスベガスで開催されるIMEX America 2026の最新教育プログラムを見ると、その変化が鮮明に表れています。今週のGlobal MICE Trendsでは、AI時代に変わり始めた「イベントプロフェッショナルの仕事」を読み解きます。

① AI活用率は上昇──しかし求められているのは「AIに任せる力」ではない

IMEXが9月2日に発表したIMEX America 2026の教育プログラムでは、AIが重要テーマの一つとして取り上げられています。IMEXが引用するAmex GBTの「2026 Global Meetings & Events Forecast」によると、イベントプランナーの約半数がすでに仕事にAIを取り入れているとされています。

一方で、参加者側では、

  • よりインタラクティブな学び
  • 意味のあるネットワーキング
  • パーソナライズされた体験

への要求が高まっています。つまり、AIによって業務を効率化するだけでは、良いイベントにはならないということです。IMEX Americaでも、AIを単なる「仕事を短縮するツール」としてではなく、人間の判断やクリティカルシンキングを支援する存在として位置付けています。イベント担当者に求められる能力も、「自分ですべての作業をする」から、「AIに任せる仕事と、人間が考える仕事を分ける」方向へ変わっていきそうです。

② 「ロジスティクス」から「Experience Design」へ

従来、イベント担当者の重要な能力といえば、

  • 会場を押さえる
  • 登壇者を調整する
  • スケジュールを作成する
  • ケータリングを手配する
  • 音響・映像・照明を手配する
  • 当日の進行を管理する

といったロジスティクス能力でした。もちろん、これらは今後も重要です。しかしIMEX America 2026の教育プログラムには、「Experiential Event Design」というトラックが設けられています。

そこで扱われるのは、Logistics × Behavioral Science(行動科学)という考え方です。例えば、同じネットワーキングイベントでも、「18時から交流会を開催します」だけでは参加者同士が自然に交流するとは限りません。誰を近くに配置するか。どんなテーブルを置くか。最初の会話をどう生み出すか。どのタイミングで飲食を提供するか。参加者がどのように移動するか。こうした設計によって、人の行動は変わります。

つまりイベント担当者には、「イベントを運営する能力」だけではなく、「人の行動をデザインする能力」が求められ始めているのです。

③ 「全員に同じイベント」ではなくなる

さらに重要になっているのが、Designing for Human Needsという考え方です。IMEX Americaでは今年、人間の多様なニーズに対応することを一つの独立した教育テーマにしています。

対象となるのは、

  • 身体的なアクセシビリティ
  • 食事制限
  • 感覚への配慮
  • ニューロダイバーシティ
  • 心理的安全性
  • 所属感

などです。例えば、大音量の音楽が楽しい人もいれば、強い刺激を負担に感じる人もいます。大人数のネットワーキングを楽しめる人もいれば、少人数の会話の方が参加しやすい人もいます。

一日中セッションを受講できる人もいれば、途中で静かな場所で休む必要がある人もいます。これまでイベントでは、「同じ体験を全員に提供する」ことが公平だと考えられがちでした。しかしこれからは、「一人ひとりが参加しやすい選択肢を用意する」ことがイベント設計の重要な考え方になっていきそうです。

④ AI時代に価値が高まる「人間の仕事」

ここまでを見ると、一つ面白いことに気づきます。AIが進化しているにもかかわらず、イベント担当者に求められる能力は、むしろ人間的な領域へ広がっています。

例えば、参加者が何を求めているかを理解する。場の空気を読む。人と人をつなぐ。参加者の感情を想像する。チームを動かす。クリエイティブな体験を考える。そして、「なぜこのイベントを開催するのか」を定義する。

これらは、単純な業務自動化だけでは解決できません。IMEX Americaでは、AI時代の「Trust(信頼)」をテーマにしたセールスセッションや、人間中心のイベント設計、クリエイティビティなども教育プログラムに組み込まれています。

つまりAI時代のイベント担当者には、Operation Skillsだけでなく、Human Skillsがより重要になっているのです。

⑤ イベント担当者は「Event Producer」から「Experience Architect」へ

では、これからのイベント担当者はどのような仕事になるのでしょうか。これまでのイベント業務を単純化すると、

企画

会場手配

各種手配

準備

当日運営

でした。しかし今後は、

目的を定義する

参加者を理解する

理想の体験を設計する

AIが準備・手配を支援する

人がクリエイティブとコミュニケーションに集中する

イベントを実施する

成果をデータで測定する

次のイベントへ学習をつなげる

という形へ変わっていく可能性があります。こう考えると、イベント担当者は単なる「Event Producer」ではありません。むしろ、Experience Architect(体験を設計する人)に近い存在になっていくのではないでしょうか。