特集

【IT・DX・AI総合展2026】3日目レポート“働くAI”を実務に落とし込むための条件とは

IT・DX・AI総合展3日目

イベント概要

イベント名:IT・DX・AI総合展
取材日:2026年4月10日(金)
取材対象:展示会3日目カンファレンス

最終日となる3日目のカンファレンスでは、AIエージェントの進化、汎用生成AIの限界、BtoBマーケティングにおける実務活用、そして業務部門での導入設計といったテーマが並びました。扱う領域は異なるものの、各講演に共通していたのは、AIを“話題の技術”として捉える段階から一歩進み、実務で機能させるには何が必要かを具体的に問う視点です。

1日目が「導入から業務実装へ」、2日目が「定着と成果化」だとすれば、3日目はその延長線上で、AIを現場で“働かせる”ための条件を掘り下げる1日だったと言えます。未来像の提示にとどまらず、どこでつまずき、どう乗り越えるかまで含めて語られていた点が印象的でした。

①世界は“働くAI”へ向かっている──シリコンバレーが見ているその先の未来

― AIは“答える存在”から、“作業を引き受ける存在”へ進み始めている

MODE, Inc. 上田学氏の講演は、シリコンバレーで起きているAIの進化を、日本の来場者に分かりやすく引き寄せて見せる内容でした。中心にあったのは、「AIエージェント」がいよいよ現実の業務を担い始めている、という変化です。
従来の生成AIが、質問に答える対話型の存在として使われてきたのに対し、現在は、指示を受けた後に一定の自律性を持って作業を進める“働くAI”へと進化しつつあると整理されていました。

講演では、コーディング支援にとどまらず、画面設計、ブラウザ操作、ファイル探索、情報収集といったタスクにまでAIの役割が広がっていることが具体例とともに紹介されました。とりわけ印象的だったのは、AIがPC上で動き、ユーザーの代わりにブラウザを操作したり、必要な情報を取りに行ったりする世界観です。これは単なる作業効率化ではなく、デジタル業務の“手足”としてAIが機能し始めていることを示しています。

一方で、オープンなエージェントは可能性が大きい反面、セキュリティや制御の面では未成熟な部分もあるとされ、だからこそ今は“何ができるか”と“どこまで任せられるか”を見極める過渡期にあることが示されました。AIが人を置き換えるかどうかよりも、人と並走しながら、どの作業をどこまで引き受けられるかが問われている。そうした現在地を端的に示す講演でした。

②なぜ“汎用生成AI”は現場で使えないのか

いま、オーダーメイドAIが求められる理由 ―

松尾研究所発AIスタートアップ4社によるパネルディスカッションでは、生成AI導入の現場で起きている“次の壁”が議論されました。すでに多くの企業が汎用生成AIを試し始めている一方で、「自社業務にはフィットしない」「PoC止まりで終わる」という声が増えている背景には何があるのか。議論を通じて浮かび上がったのは、汎用性の高さそのものが、現場での使いにくさにもつながりうるということです。

パネルでは、RAGで十分なのか、追加学習まで踏み込むべきなのかといった技術的論点も扱われましたが、議論の軸はむしろ「どの程度の精度向上に、どれだけの投資をかける価値があるのか」という現実的な判断に置かれていました。図面処理のように、精度向上が直接的に大きな業務インパクトを生む領域であれば投資の意味は大きい。一方で、マニュアル参照のような用途では、多少精度が落ちても、より軽く早く導入できる選択肢のほうが合理的な場合もある。ここでは、AI導入を“技術選定”ではなく、業務インパクトとコストのバランスを取る経営判断として捉える視点が共有されていました。

また、印象的だったのは、「技術進化が速いから大規模開発は控えるべきか」という問いに対して、むしろ進化が止まらないことを前提に、今の時点でどう始めるかを考えるべきだという意見が示されていたことです。AI前提の業務像を描き、その理想形に対して現状の業務理解をどこまで深められているかが成否を分ける。結局のところ、オーダーメイドAIが求められる理由は、モデルの性能だけではなく、各社の業務プロセスや判断基準が固有であることにあります。汎用AIの限界を語ると同時に、現場実装に必要な解像度の高さを改めて確認するセッションでした。

③運用のプロが直伝!BtoBで良質なリードを獲るクリエイティブの鉄則

― BtoB広告は“クリックを増やす”より、“刺さる相手を絞る”発想が重要です

シナジーマーケティングの講演では、BtoB広告運用において“良質なリード”をどう獲得するかが、実務の視点から整理されました。話の出発点は、リード数は増えているのに商談化しない、営業から見て有効なリストにならないという、多くの企業が抱える悩みです。講演では、その背景に、広告運用がCPAやCV数に偏りすぎ、営業成果との接続が見えにくくなっている構造があると指摘していました。

特に重要な論点として示されたのが、BtoB広告におけるクリエイティブの役割です。いま求められているのは、誰にでもクリックされる表現ではなく、対象となる顧客だけが反応するような“フィルターとしてのクリエイティブ”だとされました。そのためには、機能や特徴を並べるだけでなく、「これを使うことで何がどう楽になるのか」「導入後にどのような状態変化が起きるのか」といったベネフィットを、具体的な言葉で提示する必要があります。加えて、BtoBならではの意思決定不安に対して、導入実績や同業他社の事例といった社会的証明を添えることも重要だと語られていました。

後半で印象的だったのは、広告とLP、さらにはCRMまでを一体で設計すべきだという視点です。短いLPが流行した時期もありましたが、AIによる配信最適化が進む現在は、テキスト量の少ないページではターゲットの解像度が下がり、配信精度が落ちやすいという話も紹介されました。また、成約した顧客データを広告運用にきちんと戻し、AIに“どの顧客が本当に有効だったか”を学習させていくことの重要性も語られました。つまり、BtoB広告の成果は、クリエイティブ単体で決まるのではなく、広告・LP・営業・CRMがつながった状態で初めて高まるということです。数字を追うだけでは見えない、BtoBならではの運用の難しさと面白さがよく表れた講演でした。

④デモで分かるMicrosoft Copilot活用

― AIエージェント導入で“止まりがち”な5つの壁とその越え方 ―

パーソルクロステクノロジーの講演は、AIエージェント導入がなぜ進まないのかを、非常に実務的に整理した内容でした。神田淳氏は、企業がつまずきやすい壁として、①何から始めてよいか分からない、②ライセンスや仕組みが難しい、③予算が取りにくい、④導入後の運用保守が不安、⑤ガバナンスルールが未整備、という5点を挙げています。AIエージェントの話題は増えている一方で、現場ではこの“止まりがちな理由”が整理されないまま議論だけが先に進んでしまう。その構図を丁寧に言語化していた点が印象的でした。

講演で一貫していたのは、「全社最適」や「完璧な仕組み」から考えないことの重要性です。まずは問い合わせの多い業務や、担当者の負荷が高い業務といった、効果が見えやすいところから始める。AIに最終判断を任せるのではなく、検索・要約・下書き作成のような確実性の高い領域に絞って使う。一業務・一部門に限定して、小さく成功体験を作る。その考え方は、AI導入にありがちな“壮大な構想倒れ”を避けるうえで、非常に現実的でした。

また、ROIを金額換算だけで見ないことや、既存のMicrosoft 365環境を前提に無理なく始めること、作り込んだ“野良エージェント”を増やさずに業務部門が触れられる形にすることなど、導入を前に進めるための視点も整理されていました。講演タイトルどおり、会議室予約対応のデモも交えながら、AIエージェントは特別な部門のためのものではなく、人事・総務・DX部門でも始められる“業務改善の延長線上”にあることが示されていました。実装を阻む壁を抽象論ではなく具体的な障害として捉え、その越え方まで示した点で、最終日の締めくくりにふさわしい内容だったと言えます。

まとめ

3日目のカンファレンスを通して見えてきたのは、AI活用の議論がいよいよ“実際に働かせる”フェーズに入ってきたということです。シリコンバレーではAIエージェントがPC上の作業を引き受け始め、日本の企業現場では汎用生成AIの限界を見極めたうえで、より業務に合った実装が求められています。マーケティング領域では広告からCRMまでを含めた運用設計が問われ、業務部門の導入では、目的設定やROI以前に“小さく始めて動かす”ための現実的な判断が重要になっています。

1日目が「導入から業務実装へ」、2日目が「定着と成果化」だとすれば、3日目はその先にある**“働くAIをどう成立させるか”**を示した1日でした。重要なのは、AIが何でもできるかどうかではありません。どの業務で、どのレベルまで、どのような条件のもとで任せられるのか。その見極めと設計こそが、これからのAI活用の成否を分けていくのだと、最終日の講演群は強く示していました。