世界のMICE業界で、イベントの「デザイン」という言葉がこれまで以上に重要になっています。ここでいうデザインとは、会場装飾やステージデザインだけではありません。

誰と出会うのか。
どう学ぶのか。
どこで休むのか。
何を感じるのか。
そして、イベントが終わったあとに何が残るのか。

こうした参加者の一連の体験すべてを設計することが、これからの「Event Design」になりつつあります。その流れを象徴しているのが、2026年10月にラスベガスで開催される世界最大級のMICE展示会「IMEX America 2026」です。

今年のテーマは、「Design Matters」

今週のGlobal MICE Trendsでは、このキーワードから見えてくる世界のMICEの変化を紹介します。

① 世界最大級のMICE展示会が掲げる「Design Matters」

10月13〜15日にラスベガスで開催されるIMEX America 2026。

9月1日に公開された最新情報によると、今年は最大17,000人規模の業界関係者が集まる可能性があり、教育プログラムでは、

  • AI・テクノロジー
  • クリエイティビティ
  • ウェルネス
  • サステナビリティ
  • ニューロダイバーシティ
  • セールス

など、多様なテーマが扱われます。しかし興味深いのは、これらを個別のテーマとして扱うだけではないことです。今年の教育プログラムでは、一つのテーマを複数の角度から考える「トピックブロック」を導入。

例えばAIなら「AIツールを紹介する」で終わるのではなく、AIによって参加者体験をどう変えるのかまで考える構成になっています。イベントテクノロジーの進化に合わせて、議論の中心が「何のツールを使うか」から、「どんな体験をつくるか」へ移っているのです。

② 「詰め込むイベント」から「余白を設計するイベント」へ

もう一つ興味深い変化があります。

それが**Wellness(ウェルネス)**です。イベント担当者は、参加者にできるだけ多くの価値を提供しようとすると、

9:00 基調講演
10:00 セッション
11:00 セッション
12:00 ランチ
13:00 商談
14:00 セッション……

というように、ついプログラムを詰め込んでしまいます。しかし、参加者の立場で考えるとどうでしょうか。情報をインプットし続け、商談し続け、ネットワーキングし続ける。これではイベント後半には疲れてしまいます。

IMEX Americaでは、今年もウェルビーイングをイベント体験の重要な要素として位置付けています。ここから見えてくるのは、「何を入れるか」だけでなく「何を入れないか」もイベントデザインであるという考え方です。

例えば、

  • セッション間に15〜30分の余白をつくる
  • 静かに過ごせるスペースを用意する
  • 少人数で話せる場所をつくる
  • 歩きながら交流できる仕掛けを設ける
  • 集中する時間と交流する時間を明確に分ける

といった設計です。イベントの満足度を上げるためにコンテンツを増やすのではなく、あえて「何もしない時間」をつくる。そんな発想も、これからのイベント設計では重要になりそうです。

③ 「偶然の出会い」をどうデザインするか

そして、リアルイベントだからこそ重要になるのが、Serendipity(セレンディピティ=偶然の出会い)です。

オンラインイベントでは、自分が選んだセッションを視聴して、そのまま退出することができます。一方、リアルイベントでは、「隣に座った人と話した」「休憩スペースで偶然知り合った」「知人から別の人を紹介された」といった、予定していなかった出会いがあります。

実はこの偶発性こそ、リアルイベントの大きな価値です。IMEX America 2026でもネットワーキングやコミュニティ形成が重視され、イベント全体を通じて参加者同士が関係を築ける環境が設計されています。ここで重要なのは、偶然は、ある程度“設計できる”ということです。

例えば、

参加者が自然に交差する導線をつくる。

長テーブルでランチを提供する。

テーマ別の小さな交流スペースをつくる。

商談と商談の間に余裕をつくる。

こうした小さな工夫によって、人と人が話す確率は大きく変わります。AIによるマッチングが「会うべき人」を提案する一方で、リアル空間は、「会う予定ではなかった人」と出会う場所になる。AI時代だからこそ、この価値はむしろ高まっていくのかもしれません。

④ イベントは「終了した瞬間」に終わらない

さらに世界のMICEでは、イベントデザインの対象が開催後にまで広がっています。8月27日、ICCA(国際会議協会)とBestCities Global Allianceは、2026年の「Incredible Impacts Programme」のSeed Fund Grant受賞団体を発表しました。

選ばれたのはInternational Hepato-Pancreato Biliary Association(IHPBA)。10月にシンガポールで開催される世界会議に合わせて、低・中所得国における肝細胞がん治療の格差改善につながるLegacy Projectを展開します。

つまり国際会議を、専門家が集まって議論するだけの場で終わらせず、社会課題を解決するための起点として設計しているのです。ここにも「Design Matters」という考え方が表れています。

イベントを設計するとき、「当日をどう成功させるか」だけではなく、「1年後、このイベントによって何が残っているか」まで考える。

世界のMICEでは、そこまでがイベントデザインになり始めています。

BizMICE Insight

今回の世界の動きから見えてくるのは、「良いイベント」の定義そのものが変わっているということです。これまでは、

良い会場を選ぶ。
著名な登壇者を呼ぶ。
コンテンツを充実させる。
滞りなく運営する。

これらがイベント成功の重要な要素でした。もちろん、これからも重要です。しかしAIによって情報そのものの価値が相対的に下がっていくと、「わざわざその場所に行く理由」がこれまで以上に問われるようになります。

だからこそ、学び × 出会い × 余白 × 感情 × 偶然 × レガシーまで含めてイベントを設計する。そしてAIは、その体験を効率化するためではなく、より良い体験を生み出すために使う。

これが世界のMICEで始まっている次の変化ではないでしょうか。イベントを成功させるために、「何を実施するか」から考えるのではなく、「参加者に何を感じ、何を持ち帰ってほしいか」から逆算する。2026年のIMEX Americaが掲げる「Design Matters」という言葉は、これからのイベントづくりを象徴するキーワードになりそうです。