「このイベントを、なぜこの街で開催するのか。」会場の広さ、交通アクセス、ホテルの数。開催地を選ぶ際に欠かせない条件ですが、参加者にとっては、その街で誰に会い、何を学べるかも重要です。

今回取り上げるのは、オランダの港湾都市・ロッテルダム。港湾・海事産業やエネルギー分野の集積を生かし、専門家や企業が集まる理由をつくるこの都市から、日本のイベント主催者や地域都市が参考にしたい視点を探ります。

1.地域の産業を「会議を開く理由」にする

ロッテルダムの公式コンベンション情報では、港を中心に、海運、物流、造船、海洋工学、海事サービスなど、多様な産業が集積していることを紹介しています。さらに、関連する研究機関、業界団体、起業支援組織なども案内しています。

こうした情報は、イベント主催者にとって、会場探し以上の意味を持ちます。物流の未来を議論するなら、物流企業や研究者とつながれる。海洋技術について学ぶなら、関連する技術や事業の現場に触れる機会を検討できる。

その地域に専門家と現場があること自体が、開催地を選ぶ理由になるのです。日本の地域都市にも、製造業、農業、食品、医療、観光など、長年培ってきた産業があります。誘致や企画の段階で、「どの施設を使えるか」とともに「どの企業や専門家とつながれるか」を整理すれば、開催提案の内容は具体的になります。

2.産業が抱える課題から、世界と議論するテーマをつくる

ロッテルダムが発信しているのは、既存産業の強みだけではありません。エネルギー転換も、会議やビジネスイベントの重要なテーマとして位置付けています。公式サイトでは、従来のエネルギー産業の基盤とともに、洋上風力、水素、循環型経済などに関する取り組みを紹介しています。

この点から読み取れるのは、地域の変革課題を、外部の知識や協力者を集めるテーマとして扱う姿勢です。実際、ロッテルダムでは2024年に世界エネルギー会議(World Energy Congress)を開催。市の公式情報でも、エネルギー転換と国際的な会議・イベントの関係を紹介しています。地域が直面している課題は、他の都市や企業にも共通している可能性があります。

例えば、日本であれば次のようなテーマが考えられます。

地域の産業・課題イベントで議論するテーマ例
製造業の人手不足自動化、技能継承、人材育成
農業の担い手不足スマート農業、事業承継
観光地の混雑観光客の分散、交通、住民との共生
工業地域の脱炭素エネルギー転換、資源循環

これらは日本への応用例です。地域の現状を出発点にすると、議論すべき問いや招待する相手が見えてきます。

3.研究者や専門家を、都市と主催者の橋渡し役にする

専門性の高い会議を誘致するには、その分野のネットワークが欠かせません。ロッテルダムでは「Rotterdam Knowledge Ambassadors」という仕組みを通じて、科学者、研究者、専門家と連携しています。公式案内には、エラスムス大学、エラスムス医療センター、デルフト工科大学などの知識機関が挙げられています。

ここから日本の地域都市が参考にできるのは、会議の専門分野を理解する人と、開催を支援する人が協力する体制です。研究者や業界の専門家は、議論の動向や学協会のネットワークを持っています。一方、コンベンションビューローや運営会社は、会場、宿泊、手配、広報などを支援できます。

両者が早い段階でつながれば、「この街なら、このテーマで、こうした交流ができる」という提案を組み立てやすくなるでしょう。開催地の魅力を伝えるには、その分野を理解し、地域との接点を説明できる人の存在も重要です。

4.主催者が、地域の協力者にたどり着けるようにする

地域に魅力的な企業や専門家がいても、主催者が接点を持てなければ、プログラムには生かせません。ロッテルダムのコンベンションビューローは、会場やホテルの助言に加え、地元の専門家・パートナーとの接続、誘致提案書の作成支援、開催後に残す成果の検討などをサービスとして案内しています。

この役割は、日本でも重要です。例えば、「地域企業の見学を組み込みたい」という要望には、訪問先の候補だけでなく、受け入れ条件、説明内容、移動、通訳などの調整が必要になります。

地域の魅力を伝える段階から、主催者が実施できる形に整える段階へ。その橋渡しができると、地域資源をイベントに取り入れやすくなります。施設、企業、大学、行政がそれぞれ情報を持つだけでなく、相談を受けた際につなげられる関係をつくることが大切です。

5.会議の目的と、地域に残す成果を重ねる

ロッテルダムでは、「Rotterdam Collaboration for Change」という枠組みを通じて、会議やイベントと地域の社会課題を結び付ける取り組みも案内しています。主催者の使命や要望に合わせて、地域との協働を考える仕組みです。公式サイトでは、市民へのデジタル技能教育などにつながる連携先も紹介しています。

日本で応用する場合も、イベントのテーマと地域のニーズが重なるところから考えられます。技術系の会議なら、学生と専門家が話せる機会を設ける。地域産業の展示会なら、企業間の交流を次の共同企画につなげる。

大切なのは、関係者が無理なく参加でき、開催後の担当者や活動まで決められる規模にすることです。地域との連携を企画書に書くだけで終わらせず、誰が何を担い、いつ成果を確認するかまで具体化する必要があります。

日本の主催者が、企画前に確認したいこと

ロッテルダムの事例を踏まえると、開催地選びの段階で、次の三つを確認するとよいでしょう。

  • 地域の専門性:テーマに関係する企業、研究者、団体はあるか
  • 参加者への価値:講演に加えて、見学や対話の機会をつくれるか
  • 実施する体制:地域側との調整や、開催後の連携を誰が担うか

これらを確認すると、会場費やアクセスに加えて、イベントの目的を達成しやすい開催地かどうかを比較できます。

BizMICE編集部の視点

地域の「強み」と「解きたい課題」を、開催価値にする

ロッテルダムから学べるのは、都市の日常にある産業や課題を、イベントの企画につなげる考え方です。

地域にとって身近な仕事や技術も、他地域の参加者には貴重な学びになるかもしれません。地域が取り組んでいる課題も、専門家や企業が集まり、協力するきっかけになり得ます。

次のイベントでは、開催地にこんな問いを投げかけてみてください。

「この街の専門家と現場に触れることで、参加者は何を持ち帰れるだろうか。」

その答えをプログラムに落とし込むことで、開催地とイベントの関係は、より深いものになります。

※公式情報は2026年11月2日時点。日本への応用例および考察はBizMICE編集部によるものです。