【Destination Watch Vol.17】バンクーバーはなぜ「環境に優しいイベント」を競争力にできたのか〜世界初のダブルLEEDプラチナ認証。自然と共生する会議施設から学ぶ、次世代MICE戦略
カナダ西海岸に位置するバンクーバー。太平洋に面し、背後には美しい山々が広がる、世界有数の自然豊かな都市です。一方で、テクノロジー、映画・映像制作、ライフサイエンスなどの産業も集積しています。この都市をMICEの視点で見ると、非常に興味深い特徴があります。
それは、環境への配慮を、イベント開催の付加価値として提供していることです。世界中でサステナビリティへの関心が高まるなか、イベント主催者にも変化が起きています。「何人集まったか」「どれだけ盛り上がったか」だけではありません。
「開催によって、どれだけ環境負荷が生じたか」「その負荷をどのように減らしたか」という視点が、イベントの評価に加わり始めています。今回紹介するバンクーバーは、その考え方を象徴する都市です。特に注目したいのが、海沿いに建つVancouver Convention Centre。
この施設には、環境負荷を低減する仕組みが建築段階から組み込まれています。イベントのサステナビリティは、主催者の努力だけで決まるわけではない。バンクーバーからは、そんな重要な示唆が得られます。
1. 数字で見るバンクーバーのMICE
まずは、バンクーバーを代表するVancouver Convention Centreの実績を見てみましょう。
施設を運営するBC Pavilion Corporation(PavCo)の2024/25年度資料によると、同施設では次の実績を記録しています。
| 項目 | 2024/25年度実績 |
|---|---|
| 開催イベント数 | 340件超 |
| 施設来場者数 | 約140万人 |
| イベント収入 | 約8,300万カナダドル |
| 域外来訪者による経済効果 | 約4億4,200万カナダドル |
※経済効果は施設売上ではなく、来訪者消費等による地域への波及効果を示す推計値です。
注目したいのは、経済効果の大きさだけではありません。サステナビリティを重視する施設であっても、大規模なイベント需要を受け入れ、地域経済へ貢献しているという点です。
環境配慮と経済成長は、必ずしも対立するものではないのです。
2. 注目施設|Vancouver Convention Centre
バンクーバーのウォーターフロントに位置するVancouver Convention Centre。その最大の特徴は、建物そのものがサステナビリティを体現していることです。施設はEast BuildingとWest Buildingの2棟で構成され、合計約43,340㎡のイベント関連スペースを備えています。
そしてWest Buildingは、世界のコンベンション施設として初めて、建築・建設分野と運用・維持管理分野の両方でLEEDプラチナ認証を取得しました。LEEDとは、建築物の環境性能を評価する国際的な認証制度です。
ここで重要なのは、認証の対象が建物の設計だけではないことです。建てるときだけ環境に配慮するのではなく、使い続ける段階でも環境性能を追求している。この考え方が、施設全体に反映されています。
3. 屋上が「緑の生態系」になっている
Vancouver Convention Centreの象徴的な設備が、West Buildingの屋上に広がる**Living Roof(緑化屋根)**です。面積は約6エーカー、約2.4ヘクタール。そこには40万株以上の在来植物や草が植えられています。
単に景観を美しくするための屋上緑化ではありません。植物や土壌の層が断熱材として働き、夏場の熱の侵入や冬場の熱損失を抑えます。つまり屋上そのものが、建物のエネルギー効率を高める仕組みになっています。
一般的なイベント施設では、屋上は設備スペースとして利用されることが多いでしょう。しかしバンクーバーでは、屋上を、環境性能を高めるための重要なインフラに変えている。この発想が非常に興味深いのです。
4. 海水を使って建物を冷暖房する
もう一つの特徴が、海水を利用した冷暖房システムです。Vancouver Convention Centreは海に隣接する立地を活用し、海水との熱交換によって建物の冷暖房を行っています。
夏は冷却に、冬は暖房に活用します。これは、バンクーバーならではの自然条件を建物の環境性能に結びつけた仕組みです。ここから学べるのは、その地域にある自然資源を、施設運営の仕組みに取り込むという考え方です。
例えば日本でも、海沿いの都市。河川に面した都市。地熱資源を持つ地域。寒冷地。など、それぞれの自然条件に応じた施設設計が考えられます。環境配慮を、すべての都市で同じ方法によって実現する必要はありません。
地域の特徴そのものが、環境技術の強みになるのです。
5. 排水を再利用する仕組み
Vancouver Convention Centreでは、施設内の排水を処理し、トイレの洗浄水や屋上緑化の灌水などに再利用しています。これも重要な取り組みです。大規模イベントでは、参加者の飲食やトイレ利用などによって大量の水が使用されます。
その水をすべて使い捨てにするのではなく、再利用する仕組みを施設側が持つ。つまり、イベント主催者が特別な施策を行わなくても、施設を利用することで一定の環境負荷低減につながるのです。
サステナビリティを「主催者のオプション」ではなく「施設の標準機能」にする。これがバンクーバーの大きな特徴です。
6. サステナビリティは施設だけでは完結しない
もちろん、環境配慮型の建物があれば、それだけでイベントがサステナブルになるわけではありません。
イベント開催時には、参加者の移動。ケータリング。会場装飾。印刷物。機材。廃棄物。など、さまざまな環境負荷が発生します。
Vancouver Convention Centreでは、施設全体でリサイクルや有機廃棄物の回収に取り組み、地元の食材調達や持続可能な運営を重視しています。
つまり、建物の環境性能と、イベント運営の環境配慮を組み合わせている。ここが重要です。例えば主催者が、紙の配布資料を減らす。地元食材を使ったケータリングを選ぶ。再利用可能な装飾を採用する。参加者へ公共交通機関の利用を案内する。といった施策を実施すれば、施設側の取り組みと合わせて、イベント全体の環境負荷をさらに低減できます。
7. バンクーバーがMICE都市として強い5つの理由
① サステナビリティを都市のブランドにしている
自然豊かな都市というイメージを、実際の会議施設やイベント運営の仕組みと結びつけています。「環境に優しい街」という印象だけでなく、環境性能を持つ施設を具体的に提案できる点が強みです。
② 環境配慮を施設の標準機能にしている
緑化屋根、海水利用、排水再利用など、建物自体に環境負荷低減の仕組みが組み込まれています。主催者の努力だけに依存しないことが重要です。
③ 自然と都市が近接している
会議施設から海や山を望むことができ、都市体験と自然体験を組み合わせやすい環境があります。国際会議に加え、企業のインセンティブイベントや交流プログラムにも魅力的な条件です。
④ テクノロジー産業との接点がある
バンクーバーにはテクノロジーや研究分野の産業集積があり、国際会議を通じた知識交流にも強みがあります。例えば2024年12月には、AI研究分野の大規模国際会議NeurIPSがVancouver Convention Centreで開催されました。
会議施設が、先端技術を議論する場にもなっています。
⑤ 環境と経済の両方を追求している
2024/25年度には約140万人が施設を訪れ、約4億4,200万カナダドルの地域経済効果を生み出しました。環境配慮を理由にイベントの規模や価値を犠牲にするのではなく、両立を目指している点が特徴です。
8. BizMICE Insight|これからは「会場の環境性能」も選定基準になる
日本のイベント主催者が会場を選ぶ際、一般的に重視するのは、立地。収容人数。利用料金。設備。アクセス。などです。
しかし今後は、そこに環境性能という評価軸が加わっていくのではないでしょうか。例えば、同じ1,000人規模の会議を開催できる施設が2つあったとします。一方は、環境負荷を低減する仕組みがほとんどない施設。もう一方は、再生可能エネルギーの利用、廃棄物分別、節水設備、地元食材の活用などが整っている施設。
企業のサステナビリティ方針によっては、後者が選ばれる可能性があります。つまり、環境性能が、会場の新しい競争力になる。これは会場運営事業者にとっても重要な変化です。
9. 日本ならどう応用できるか
バンクーバーの取り組みを日本へそのまま移植する必要はありません。重要なのは、都市や施設の特徴を活用することです。
例えば、
東京:公共交通機関の利用促進、既存施設の省エネルギー化、廃棄物削減などを組み合わせる。
札幌:寒冷地の特徴を活用したエネルギー効率の改善や、地域食材を使ったケータリングを推進する。
福岡:コンパクトな都市構造を活用し、参加者の移動負荷を抑えたイベント動線を設計する。
沖縄:海洋環境の保全と連動したイベントプログラムや、地域社会への貢献を組み込む。
京都:既存建築物の活用、地元事業者との連携、地域文化の継承を意識したイベントを設計する。
都市によって最適な方法は異なります。しかし共通しているのは、地域の特徴を、イベント開催の価値に変えること。これがバンクーバーから学べる重要なポイントです。
10. イベント主催者が今日からできること
大規模な設備投資を行わなくても、主催者ができることはあります。例えば、イベントの企画段階で次の項目を確認するだけでも、取り組みの第一歩になります。
| 項目 | 確認・改善ポイント |
|---|---|
| 会場 | 環境認証、節電・節水設備の有無 |
| 移動 | 公共交通機関の利用しやすさ |
| ケータリング | 地元食材、食品ロス対策 |
| 装飾 | 再利用可能な資材の採用 |
| 印刷物 | デジタル化、必要部数の最適化 |
| 廃棄物 | 分別・回収方法の確認 |
| 効果測定 | 廃棄物量、電力使用量などの記録 |
ここで重要なのは、すべてを一度に実現しようとしないことです。まずは測定する。次に改善する。そして次回のイベントへつなげる。イベントのサステナビリティも、継続的な改善活動として考えることが重要です。
Destination Watch Score
※編集部による定性的な評価です。公的な都市ランキングではありません。
| 評価項目 | 評価 |
|---|---|
| サステナビリティ | ★★★★★ |
| 会議施設の環境性能 | ★★★★★ |
| 自然・都市体験 | ★★★★★ |
| 国際会議対応力 | ★★★★★ |
| 産業との連携 | ★★★★☆ |
| 経済波及効果 | ★★★★★ |
| 日本が学べる度 | ★★★★★ |
日本との比較
| 項目 | バンクーバー | 日本への示唆 |
|---|---|---|
| 環境配慮 | 建築・設備・運営に組み込み | 会場選定基準への導入 |
| 環境認証 | ダブルLEEDプラチナ | 認証・環境性能の可視化 |
| 地域資源 | 海・山・都市環境 | 地域特性を活用 |
| 運営 | 排水再利用・リサイクル等 | 廃棄物・水・電力の管理 |
| MICEの価値 | 環境と経済の両立 | 環境配慮を競争力にする |
編集部コメント
これまでDestination Watchでは、さまざまな都市のMICE戦略を紹介してきました。
シドニーは、イベントが都市に残すLegacyを重視する都市。
マドリードは、都市に価値を生むイベントを選びにいく都市。
フランクフルトは、イベントを産業インフラにした都市。
ブリュッセルは、国際機関と政策決定の集積をMICEの競争力にした都市。
そして今回のバンクーバーは、「環境への配慮そのものを、イベント開催の価値に変えた都市」と言えるのではないでしょうか。
ここで考えたいのは、サステナビリティを単なるコストと捉えないことです。環境に配慮するために費用がかかる。手間が増える。制約が増える。そう考えることもあるでしょう。
しかし、バンクーバーのように環境性能を施設や都市の魅力として提供できれば、サステナビリティは新しい競争力になります。これからのイベントでは、「何を開催するか」だけでなく、「どのような環境負荷で開催するか」も重要になるはずです。
イベントを成功させること。地域経済へ貢献すること。そして、環境への負荷をできる限り抑えること。この3つを同時に追求する。バンクーバーは、そんな次世代のMICEのあり方を示している都市なのではないでしょうか。
記事の参考資料
今回は施設運営者やカナダの公的機関が公表する資料を中心に確認しています。
- Vancouver Convention Centre|Sustainability — 緑化屋根、海水冷暖房、排水再利用、環境認証。
- Canada Green Building Council|LEED認証事例 — ダブルLEEDプラチナ認証と建築環境性能。
- BC Pavilion Corporation|2024/25年度報告書 — 経済効果、来場実績。
- PavCo|2024/25 Year in Review — 開催件数、イベント収入、主要イベント。







🤔 この記事だけでは解決しませんでしたか?
同記事やイベント運営に関するご質問・ご相談をお願いします。 BizMICE編集部・弊社イベントサポートチームが確認し、承認後に回答いたします。
- 入社式
- 株主総会
- 展示会
- セミナー
- 周年イベント
- 他、企業内イベント、企業外向けイベント
BizMICE編集部/MICE社イベプロチームに質問する