自転車が行き交う街並み、美しい港、北欧デザイン、そして環境に配慮した暮らし。デンマークの首都・コペンハーゲンは、「サステナブルな都市」として世界的に知られています。

しかし、MICEの視点から見ると、この街の本当の面白さは別のところにあります。コペンハーゲンでは、サステナビリティを単なる「環境対策」としてではなく、国際会議やイベントを誘致するための都市競争力として活用しているのです。

2025年にはEarthCheck Sustainable Destination Certificationを取得。さらに2026年には、国際会議都市として世界トップ10に入るなど、MICE都市としても存在感を高めています。なぜコペンハーゲンは、「環境に配慮すること」と「イベントの価値を高めること」を両立できるのでしょうか。

今回は、その成功戦略を5つの視点から探ります。

1. 「環境対策」ではなく「都市の日常」になっている

コペンハーゲンを訪れると、まず驚くのが自転車の多さです。市内には約397kmの自転車道が整備され、電動ハーバーフェリーなど環境負荷の低い交通インフラも整っています。ホテルについても、市内の客室の多くが環境認証を取得しています。

さらに空港と市内中心部は地下鉄で15分以内。MICE参加者にとって、

空港 → ホテル → 会場 → レストラン → 観光

という移動を、公共交通や徒歩、自転車で行いやすい都市なのです。ここで重要なのは、イベントのためだけに特別な「グリーンプログラム」を用意しているわけではないこと。

都市の日常そのものが、サステナブルなMICEを実現しやすい環境になっている。

これがコペンハーゲンの大きな強みです。

2. 世界最大級のイベントにも対応する「Bella Center」

サステナブルな都市だからといって、小規模な会議だけに強いわけではありません。コペンハーゲンを代表するMICE施設が、Bella Center Copenhagenです。約65,000㎡のイベントスペースを持ち、最大約30,000人を受け入れることができます。ホテルにも直結し、空港や公共交通へのアクセスにも優れています。

展示会、国際会議、企業イベント、大型サミットなど、さまざまな形式に対応できる柔軟性も特徴です。つまりコペンハーゲンは、「環境に優しい」だけではなく、「大型MICEを実際に運営できるインフラ」も備えている。理念と実務の両方が揃っていることが、国際競争力につながっています。

3. CO₂を「なんとなく減らす」で終わらせない

コペンハーゲンの取り組みで特に興味深いのが、Copenhagen Sustainability Guideです。

イベント開催に伴うCO₂排出量を、

  • 国際交通
  • オンライン参加
  • 現地交通
  • 宿泊
  • 会場・イベントデザイン
  • 飲食

などに分けて算出・報告できる仕組みを提供しています。これは非常に重要な変化です。これまでイベントのサステナビリティというと、

「紙を減らしました」

「ペットボトルを削減しました」

といった個別の取り組みが中心になりがちでした。

しかしコペンハーゲンでは、イベント全体でどれだけ環境負荷が発生したのかを把握し、改善につなげる。という考え方へ進んでいます。

今後、企業がESGや脱炭素への対応を求められるほど、こうした「測定できるMICE」は開催都市を選ぶ重要な基準になるでしょう。


4. イベントを「開催して終わり」にしない

コペンハーゲンのMICE戦略には、もう一つ重要なキーワードがあります。それが**「Legacy(レガシー)」**です。国際会議を開催して、

参加者が来る。

ホテルに泊まる。

食事をする。

そして帰国する。

それだけでは、イベントが都市にもたらす価値は限定的です。

コペンハーゲンでは、大規模イベントや国際会議を社会課題の解決や知識共有、地域の発展につなげる機会として捉えています。Wonderful Copenhagenも、イベントを開催前・開催中・開催後を通じて地域や社会にポジティブなインパクトを生み出すものと位置付けています。

つまり、「何人来たか」から「何を残したか」へ。MICEの成果そのものを再定義しているのです。

5. サステナビリティを「我慢」にしない

ここが、コペンハーゲンから最も学びたいポイントかもしれません。環境配慮というと、

「便利さを我慢する」

「コストが高くなる」

「イベントが地味になる」

というイメージを持たれることがあります。しかしコペンハーゲンは、その逆を目指しています。

自転車で街を走る。

地元の食材を楽しむ。

美しい港を歩く。

北欧デザインの空間で交流する。

公共交通で簡単に街を移動する。

これらはすべて環境負荷を抑える行動であると同時に、コペンハーゲンならではの参加体験でもあります。つまり、「サステナブルだから我慢する」のではなく、「サステナブルだから体験価値が高くなる」。

この発想が、コペンハーゲンの強さなのです。

MICEの評価軸が変わり始めている

実際、こうした取り組みは国際的な評価にもつながっています。

コペンハーゲンは2025年、ConventaのMeetings Star Awardsで、2,000人以上を受け入れられる「XL Meeting Destination」部門の1位に選ばれました。評価では、サステナブルな建築や地産の食、責任あるイベント運営などが強みとして挙げられています。

さらに2026年には、Copenhagen Convention Bureauが国際会議都市ランキングで世界7位に入ったことを発表しています。「環境に配慮しているから評価される」というより、環境、移動、会場、食、都市体験までを一つのMICE戦略として設計しているから選ばれる。

そう考えたほうが、コペンハーゲンの成功を理解しやすいでしょう。

日本が学ぶべき5つのポイント

① サステナビリティを「付加価値」から「標準仕様」へ

環境配慮をオプションメニューにするのではなく、会場、交通、宿泊、ケータリングなどイベント全体に組み込むことが重要です。

② CO₂削減を「見える化」する

「環境に配慮しています」だけでは、世界では通用しにくくなっています。イベントによる排出量を測定し、削減目標や結果を示せる仕組みが、今後の競争力になるでしょう。

③ 公共交通をMICEインフラとして考える

展示場だけがMICEインフラではありません。空港からのアクセス、鉄道、地下鉄、徒歩動線まで含めて参加者体験を設計する必要があります。

④ 「開催件数」ではなく「レガシー」を評価する

イベントによって新しい研究が生まれたのか。地域企業とのビジネスが生まれたのか。社会課題の解決につながったのか。

こうした成果まで評価することで、MICEは単なる集客施策から都市戦略へ進化します。

⑤ 日本らしい「楽しいサステナビリティ」をつくる

日本には、公共交通、地域食材、温泉、伝統文化、徒歩で楽しめる街並みなど、サステナブルなMICEにつながる資源がすでに数多くあります。

重要なのは、それらを「環境対策」として押し付けるのではなく、日本で開催するからこそ得られる体験としてデザインすることです。

編集部より

コペンハーゲンから学べる最大のポイントは、サステナビリティを「制約」ではなく「魅力」に変えていることではないでしょうか。

環境負荷を減らす。

地域に利益を残す。

参加者に新しい体験を提供する。

そしてイベント終了後にも、社会に何かを残す。

これらを別々に考えるのではなく、一つのMICE体験として設計しています。

日本でもこれから、国際会議や企業イベントの開催地を選ぶ際に、

「何人収容できるか」

「会場費はいくらか」

「空港から何分か」

だけではなく、「この都市で開催することに、どんな意味があるのか」が問われるようになるでしょう。コペンハーゲンが示しているのは、未来のMICE都市とは、単に人を集める都市ではないということ。

人が集まることで、街や社会を少し良くできる都市。

その考え方こそ、日本のMICEが次のステージへ進むための大きなヒントになりそうです。