【Destination Watch Vol.7】シンガポールが「世界最高峰のMICE都市」を目指す理由〜MICEを国家戦略に組み込む、小国の強さとは
東京23区ほどの国土に、世界中の企業、人材、資本が集まるシンガポール。
アジアを代表する金融・ビジネスハブとして知られていますが、MICEにおいても世界有数の競争力を持つ都市です。その強さを支えているのが、MICEを単なる観光施策ではなく、国の経済成長や産業振興につなげる戦略として位置付けていることです。
Singapore Tourism Board(STB/シンガポール政府観光局)内には、ビジネスイベントを専門に担当するSingapore Exhibition & Convention Bureau(SECB)が置かれています。SECBはMICEを通じて「人・アイデア・テクノロジー」が集まるビジネスエコシステムを形成し、シンガポールをアジアと世界を結ぶ拠点として成長させる役割を担っています。
「イベントを呼ぶ」のではなく「産業を呼ぶ」
シンガポールのMICE戦略で注目したいのは、イベント誘致と産業政策が密接につながっていることです。
国際会議や展示会には、世界中から経営者、研究者、投資家、スタートアップ、専門家が集まります。そこで生まれるのは、宿泊や飲食などの観光消費だけではありません。
- 新しい商談
- 海外企業の進出
- 投資機会
- 技術交流
- 人材交流
- 新しいイベントコンテンツ
といった、その後のビジネスにつながる価値です。
STBの「Business Events in Singapore(BEiS)」制度も、単なる開催支援にとどまらず、質の高いビジネスイベントを長期的に誘致・成長させ、新たなコンテンツの創出を促すことを目的としています。
つまりシンガポールにとってMICEとは、「人を集める観光産業」であると同時に、「ビジネスを生み出す経済インフラ」なのです。
注目施設:Marina Bay Sands
シンガポールMICEを象徴する存在が、Marina Bay Sandsです。
ホテル、コンベンション施設、レストラン、ショッピング、エンターテインメントなどを一体化した統合型リゾートで、MICE参加者が「泊まる・集まる・食べる・交流する・楽しむ」を同じエリアで完結できる都市型MICEの代表例です。
さらにシンガポールにはSingapore EXPOなどの大型施設もあり、国際会議から大規模展示会、企業イベントまで、多様な需要を受け入れることができます。
重要なのは施設単体の豪華さではありません。空港、公共交通、ホテル、会場、飲食、観光が非常にコンパクトにつながっていること。
この「都市全体の使いやすさ」が、主催者と参加者双方にとって大きな価値になっています。STBも、交通、宿泊施設、イベントスペース、国際的な接続性をシンガポールのMICE競争力として挙げています。
シンガポールがMICE都市として成功した5つの理由
① MICEを政府が戦略的に支援
シンガポールではSECBがビジネスイベント産業を専門的に支援しています。開催支援だけでなく、誘致、イベントの成長、新規コンテンツの開発まで対象としている点が特徴です。
② アジアのハブという立地
シンガポールは東南アジアの中心に位置し、世界各地からアクセスしやすい国際交通のハブです。特にアジア市場への進出を目指す欧米企業にとって、シンガポールで開催される展示会やカンファレンスは、成長市場との接点をつくる場所になります。
③ コンパクトだからこそ生まれる利便性
空港から市街地への移動が容易で、ホテル、会場、レストラン、観光施設も比較的近距離に集積しています。数日間しか滞在しない海外参加者にとって、この移動効率は大きなメリットです。
MICE都市の競争力は、会場のスペックだけでは決まりません。
「参加者の時間をどれだけ有効に使えるか」も重要な競争力です。
④ MICEと観光体験を組み合わせる
シンガポールではビジネスイベント参加者向けの体験プログラムも整備されています。
SECBの「INSPIRE」では、飲食、エンターテインメント、アトラクションなどを組み合わせた体験を提供しています。
会議が終われば帰るのではなく、「せっかく来たのだから、この街を体験したい」と思わせる仕組みが、MICEの経済効果を街全体へ広げています。
⑤ サステナブルMICEを国家レベルで推進
シンガポールは2022年に「MICE Sustainability Roadmap」を策定しました。
2030年までにアジア太平洋地域を代表するサステナブルMICEデスティネーションになることを目標に、廃棄物や炭素排出量の測定、認証制度など、業界全体で環境負荷を減らす取り組みを進めています。
さらにSTBは、イベントが開催地に残す社会的・経済的な価値を考える「Legacy Toolkit」なども展開しています。
「World’s Best MICE City」というブランド戦略
シンガポールの面白さは、インフラ整備だけではありません。STBは2024年、「World’s Best MICE City」を掲げるグローバルキャンペーンを開始しました。
そこで訴求しているのは、「大きなイベントが開催できる」ということだけではなく、イベントを通じて産業・社会・環境にポジティブで持続的なインパクトを生み出せる都市であることです。
MICE都市の競争が、「どれだけ大きな会場を持っているか」から、「その都市で開催すると、何が生まれるのか」という競争へ変わりつつあることを象徴しています。
BizMICE Insight
シンガポールから日本が学べる最大のポイントは、「MICE政策」と「産業政策」を分けて考えないことです。
例えば、日本にはそれぞれの地域に強い産業があります。
東京ならテクノロジーや金融。
大阪ならライフサイエンス。
名古屋ならモビリティ・製造業。
福岡ならスタートアップ。
こうした地域産業と国際会議や展示会を戦略的に結び付ければ、MICEの価値は大きく変わります。海外から1万人を呼ぶことだけをゴールにするのではありません。
その1万人の中から、何件の商談が生まれたのか。
何社が地域企業とつながったのか。
どんな共同研究や投資が始まったのか。
そこまで設計することで、MICEは「イベント」から「産業を成長させる装置」になります。国土の小さなシンガポールが世界のMICE市場で大きな存在感を持つ理由は、施設の大きさだけではなく、この発想にあるのではないでしょうか。
Destination Watch Score
| 評価項目 | 評価 |
|---|---|
| 国際競争力 | ★★★★★ |
| 展示会誘致力 | ★★★★★ |
| 国際会議 | ★★★★★ |
| アクセス | ★★★★★ |
| 官民連携 | ★★★★★ |
| サステナビリティ | ★★★★★ |
| 日本が学べる度 | ★★★★★ |
日本との比較
| 項目 | シンガポール | 日本 |
| MICEの位置付け | 国家・産業戦略と連動 | 都市・地域単位の取り組みが中心 |
| 強み | アジアのハブ・ビジネス環境 | 産業集積・技術・文化・安全性 |
| 都市構造 | コンパクトで一体的 | 多様なMICE都市が全国に存在 |
| 誘致 | SECBによる戦略的支援 | 国・自治体・CVB等が推進 |
| 今後のポイント | 高付加価値化の継続 | MICEと地域産業の連携強化 |
編集部コメント
ラスベガスが「MICEを都市の巨大産業にした街」だとすれば、シンガポールは**「MICEを国家の成長戦略に組み込んだ国」**と言えるでしょう。
シンガポールの事例を見ると、日本のMICEにも大きな可能性が見えてきます。
日本には世界的な製造業、医療・ライフサイエンス、コンテンツ、食、伝統文化、大学・研究機関など、国際イベントと結び付けられる資源が全国にあります。
重要なのは「海外から何人来たか」だけではなく、イベントによって地域や産業に何を残せたか。
MICEの成果指標そのものをアップデートすることが、日本の次のMICE戦略を考える第一歩なのかもしれません。







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