イベント担当者の仕事は、実に多岐にわたります。

企画書の作成、会場探し、予算管理、登壇者との調整、集客、参加者管理、運営マニュアルの作成、当日の進行管理、そしてイベント終了後の効果測定。これらの業務を、通常業務と兼任しながら進めている担当者も少なくありません。

「もっと企画を考える時間が欲しい」「Excelやメールでの管理に限界を感じている」「毎回同じような資料を一から作っている」

こうした課題を解決する手段として注目されているのが、AIやデジタルツールを活用したイベントDXです。イベントDXとは、単に紙の資料をデジタル化したり、オンライン会議を導入したりすることではありません。

デジタル技術によってイベントの企画・準備・運営・効果測定の進め方を変え、業務効率とイベントの成果を高めることです。

今回は、イベント運営のどのような業務にAI・デジタルツールを活用できるのか、具体例を交えながら解説します。


1. なぜ今、イベント運営にDXが必要なのか?

イベント運営には、ほかの業務とは異なる特徴があります。

  • イベントごとに必要な作業が変わる
  • 開催日という絶対的な期限がある
  • 多くの社内外関係者が参加する
  • 直前まで変更が発生する
  • 本番での失敗が許されない

さらに、イベント準備では多くの情報が分散しがちです。

例えば、

  • 作業計画はExcel
  • 連絡はメールやチャット
  • 企画書はPowerPoint
  • 運営マニュアルはWord
  • 参加者リストは別の管理システム
  • 最新資料は担当者のPC

という状態です。これでは、関係者が増えるほど情報共有に時間がかかり、認識のズレも生じやすくなります。

イベントDXが目指すのは、こうした作業や情報共有の負担を減らし、担当者が本来注力すべき仕事に時間を使える環境をつくることです。

イベント準備はAIで効率化。企画に集中する時間を生み出す「MICE Joy」


2. イベント担当者の仕事は「考える仕事」と「作業する仕事」に分けられる

イベント運営の業務を整理すると、大きく2つに分けられます。

① 考える仕事

  • イベントの開催目的を考える
  • ターゲットを設定する
  • 参加者が喜ぶ企画を考える
  • 演出やコンテンツを設計する
  • イベントの成果を高める方法を考える

② 作業する仕事

  • 準備タスクを洗い出す
  • スケジュール表を作る
  • 会議の議事録をまとめる
  • 関係者へ連絡する
  • 参加者リストを整理する
  • 資料を更新する
  • アンケート結果を集計する

もちろん、すべての仕事が明確に分かれるわけではありません。しかし、イベント担当者の時間が定型的な作業に費やされていると、企画や体験価値の向上に十分な時間を使えなくなってしまいます。

そこで重要なのが、AIやデジタルツールで作業を効率化し、人が考える時間を増やすことです。イベントDXの本質は、単なる省力化ではありません。イベントの価値を高めるための時間を生み出すことなのです。


3. イベントDXで効率化できる6つの業務

では、具体的にどのような業務を効率化できるのでしょうか。

代表的な6つの領域を紹介します。

イベント準備はAIで効率化。企画に集中する時間を生み出す「MICE Joy」


WBS・準備スケジュールの作成

イベント準備で重要なのが、WBS(Work Breakdown Structure)です。WBSとは、プロジェクトに必要な作業を洗い出し、管理しやすい単位に分解したものです。

例えば、企業セミナーを開催する場合、

  • 開催目的の設定
  • 会場選定
  • 登壇者手配
  • 告知ページ作成
  • 集客
  • 参加者管理
  • 運営マニュアル作成
  • リハーサル
  • 本番運営
  • アンケート・効果測定

など、多くのタスクが必要になります。従来は担当者が過去の資料を参照しながら、Excelなどで作業計画を作成することが一般的でした。しかし、AIを活用すれば、イベントの種類や開催日時などを基に、必要なタスクやスケジュールの案を生成できます。

例えば、イベントプロジェクト管理ツール「MICE Joy」では、イベントのカテゴリーや開催日時などを設定することで、AIが作業計画表(WBS)を自動生成します。これにより、担当者はタスクをゼロから洗い出す負担を減らし、そのイベント固有の準備や重要事項の確認に集中しやすくなります。

ただし、AIが生成したタスクは、イベントの内容に合わせて人が確認・調整することが必要です。


会議・情報共有・タスク管理

イベント準備では、定例会議や関係者との打ち合わせが繰り返し行われます。そこで問題になるのが、会議で決まったことが実際の作業に反映されないケースです。

例えば、「登壇者の資料提出期限を変更する」「受付スタッフを2名追加する」「オープニング映像の内容を修正する」と決まっても、その情報が担当者に伝わらなければ、作業は進みません。

MICE Joyを活用すれば、会議内容の文字起こしや要約、決定事項の抽出を支援できます。会議で決まったこと → 担当者の確認 → WBSのタスクを自動反映 → 進捗管理という流れを整理できます。

ただし、AIによる議事録には誤認識や要約漏れが生じる可能性があるため、重要な決定事項や担当者、期限は必ず確認しましょう。


集客・参加者管理

イベント集客でもデジタルツールは活躍します。

例えば、

  • イベント告知ページの作成
  • メール配信
  • 申込フォーム
  • 参加者情報の管理
  • リマインドメール
  • 集客チャネル別の効果測定

などです。従来は申込者リストを手作業で整理し、メールを個別に送ることもありました。しかし、イベント管理システムを活用すれば、申込受付から参加者への案内まで、一連の業務を効率化できます。

さらに、生成AIを活用して、「経営層向けの案内メール」「若手社員向けの告知文」「過去参加者向けの再参加案内」など、ターゲット別の文章案を作成することもできます。ただし、AIが作成した文章については、日時・会場・料金・登壇者情報などの事実確認が欠かせません。AIで作成時間を減らし、人が内容の正確性と訴求力を高めることが重要です。


受付・チェックイン

イベント当日の受付も、デジタル化によって効率化しやすい業務の一つです。例えばQRコード受付です。参加者が事前に受け取ったQRコードを受付で提示し、スタッフが読み取ることでチェックインできます。

これにより、氏名確認 → 紙の名簿から検索 → チェックという作業を減らせます。また、システムによっては、来場状況をリアルタイムで確認することも可能です。

ただし、QRコード受付を導入する場合でも、

  • QRコードを表示できない参加者への対応
  • 通信障害への備え
  • 予備端末の準備
  • 当日参加者への対応

などを考えておく必要があります。第13回で紹介したように、受付の目的は単に処理速度を上げることではありません。

参加者を待たせず、気持ちよく迎えることです。

デジタル化によって生まれた余裕を、参加者への案内やサポートに活用しましょう。


運営マニュアル・進行資料の作成

イベント当日には、多くの資料が必要になります。

例えば、

  • 運営マニュアル
  • 進行台本
  • スタッフ配置表
  • 会場レイアウト
  • 緊急連絡先一覧
  • リハーサル確認表

などです。こうした資料の作成でも、AIを補助的に活用できます。例えば、イベント概要や確定した運営条件を基に、運営マニュアルの構成案やチェックリストのたたき台を作成することができます。

ただし、生成AIが作成した資料には、実際の会場設備や避難経路、契約条件などが正しく反映されていない可能性があります。そのため、AIが作成した案をそのまま本番資料として使用することは避け、必ず担当者が確認する必要があります。

特に、安全管理や緊急対応に関する内容は、会場担当者や専門スタッフと確認しましょう。


アンケート分析・効果測定

イベント終了後の効果測定にも、AIを活用できます。

例えば、アンケートの自由記述欄に数百件のコメントが集まった場合です。すべてのコメントを人が読み、傾向を整理するには時間がかかります。

そこでAIを活用すれば、

  • 好評だった点
  • 改善要望
  • 頻出するキーワード
  • 参加者の主な意見
  • 次回への改善案

などの整理を支援できます。さらに、参加者数や商談数、満足度などのデータを集計し、レポート作成に活用することも考えられます。

ただし、AIの分析結果だけで判断するのではなく、元データとの照合が必要です。

第17回で紹介したKPIやROIの測定と組み合わせることで、イベントの成果をより効率的に評価できるようになります。

イベント準備はAIで効率化。企画に集中する時間を生み出す「MICE Joy」


4. イベントDXの導入効果を整理する

ここまで紹介した内容を整理すると、次のようになります。

業務従来の課題AI・デジタル活用の例
WBSタスクを一から洗い出すAIによるタスク生成
会議議事録作成・共有が負担AI議事録・要約
タスク管理進捗や担当が分かりにくいクラウドでの進捗共有
集客メール配信や申込管理が煩雑申込・配信システム
受付名簿照合で混雑するQRコードチェックイン
効果測定集計・分析に時間がかかるデータ集計・AI分析

こうしたツールを適切に活用することで、イベント担当者の作業負担を軽減できる可能性があります。ただし、導入効果はイベントの規模や運用方法によって異なります。

ツールを導入すること自体を目的にせず、どの業務の何を改善したいのかを明確にすることが重要です。

イベント準備はAIで効率化。企画に集中する時間を生み出す「MICE Joy」


5. イベントDXは「ツールを増やすこと」ではない

ここで注意したいのが、ツールの導入そのものが目的になってしまうことです。例えば、

タスク管理はAというツール。

資料共有はBというツール。

チャットはCというツール。

参加者管理はDというツール。

というように、ツールが増えすぎると、かえって情報が分散する可能性があります。そのため、イベントDXでは次の3点を意識しましょう。

① 情報の管理場所を明確にする

「タスクはどこで管理するのか」「最新版の資料はどこにあるのか」「決定事項はどこで確認するのか」といったルールを決めます。

② 関係者が使いやすいこと

どれだけ高機能なツールでも、スタッフが使いこなせなければ意味がありません。社内担当者だけでなく、会場や協力会社など、必要な関係者が利用できるかも確認しましょう。

③ 既存業務との連携を考える

ツール間で同じ情報を何度も入力する状態では、十分な効率化につながりません。可能な範囲でデータ連携や運用ルールを整え、二重入力を減らすことが重要です。

イベント準備はAIで効率化。企画に集中する時間を生み出す「MICE Joy」


6. AIに任せる仕事と、人が判断する仕事を分ける

AIの活用範囲が広がるほど、重要になるのが人の役割です。例えば、次のように整理できます。

AI・デジタルが支援できること人が担うべきこと
タスクの洗い出し必要性・優先順位の判断
議事録の要約決定事項の確認
集客文面の作成訴求内容・事実の確認
アンケートの分類結果の解釈・改善判断
マニュアルのたたき台作成安全性・実現性の確認

AIは大量の情報を整理したり、文章のたたき台を作ったりすることが得意です。一方で、企業の経営目的、参加者の感情、現場の状況などを踏まえた判断には、人の関与が欠かせません。

特にイベントは、参加者にリアルな体験を提供する場です。何を伝え、どのような感情を生み、参加者にどんな行動を起こしてもらうか。こうした体験価値の設計こそ、人が注力すべき領域といえるでしょう。

イベント準備はAIで効率化。企画に集中する時間を生み出す「MICE Joy」




7. これからのイベント担当者に求められる役割

AIやデジタルツールが普及すると、イベント担当者の仕事はどう変わるのでしょうか。これまでイベント担当者は、準備作業や関係者調整に多くの時間を費やしてきました。

しかし、定型的な作業を効率化できれば、より多くの時間を企画や参加者体験の向上に使えるようになります。

例えば、「どのような演出なら参加者の記憶に残るか」「どうすれば参加者同士の交流が生まれるか」「イベントを通じて企業のメッセージをどう伝えるか」「開催後にどのような行動につなげるか」といったことです。

つまり、イベント担当者の役割は、単にイベントを予定どおり実施することから、イベントを通じて企業の成果を生み出すことへと、より重点が移っていくと考えられます。


編集部より|AIが生み出すのは「時間」。その時間で何をするかが重要

イベントDXという言葉を聞くと、業務の自動化やコスト削減をイメージするかもしれません。もちろん、それらも重要な効果です。しかし、イベントDXの本当の価値は、それだけではありません。

例えば、これまでイベント準備に100時間かかっていたとします。AIやデジタルツールを活用し、定型的な作業を効率化できれば、その分の時間を企画や参加者体験の向上に使えるようになります。イベントの価値を高めるためには、考える時間が必要です。

どのようなイベントにするのか。

参加者に何を感じてもらうのか。

開催後にどのような成果を生み出すのか。

こうしたことを考える時間を確保することが、これからのイベント担当者にとってますます重要になるでしょう。

MICEプラットフォームが提供するイベントプロジェクト管理ツール「MICE Joy」も、こうした考え方に基づいたサービスです。イベントのカテゴリーや開催日時などを設定することで、AIが必要なタスクを含む作業計画表(WBS)を自動生成し、チームで進捗を共有しながら準備を進めることができます。イベント担当者が一から作業を洗い出す負担を減らし、関係者間の情報共有を支援します。

AIに任せられる作業はAIに。人は、人にしかできない企画と体験価値の創出へ。

その役割分担こそ、これからのイベントDXの基本となる考え方です。イベント運営を効率化することは、単に楽をすることではありません。参加者にとって、より価値のあるイベントをつくるための時間を生み出すこと。それが、AI時代のイベント運営に求められる進化なのです。

イベント準備はAIで効率化。企画に集中する時間を生み出す「MICE Joy」