イベントの成功を左右するのは、何でしょうか。有名な登壇者。豪華な演出。最新の映像技術。魅力的な展示コンテンツ。

もちろん、どれも重要です。しかし、イベントの価値を生み出すのは主催者だけなのでしょうか。参加者が自分の好きなものについて語る。初めて会った人と交流する。体験したことをSNSで発信する。仲間と一緒にイベントを盛り上げる。

そんな光景を見ていると、イベントの価値は主催者が一方的に提供するものではなく、参加者と一緒につくり上げるものだと気づかされます。

今回取り上げる「gamescom」は、その可能性を考えるうえで興味深い事例です。

1.世界中のゲームファンが集まる「gamescom」

gamescomは、ドイツ・ケルンを中心に開催される世界最大級のゲームイベントです。2025年の開催では、主催者発表によると、128か国から約35万7,000人が来場。72か国から1,568社が出展し、会場にはゲームメーカー、開発者、クリエイター、メディア、ファンが集まりました。

さらに、オンラインでの視聴や情報発信を通じて、会場の外にもイベントの熱気が広がっています。ここで注目したいのは、規模の大きさだけではありません。gamescomでは、参加者が単に新しいゲームの発表を見に来るだけではないことです。

新作ゲームを体験する。好きなゲームのファン同士で交流する。コスプレを楽しむ。クリエイターの活動を応援する。自分の体験を発信する。参加者一人ひとりが、イベントの魅力を構成する存在になっているのです。

2.参加者が「見る側」から「つくる側」になる

一般的な企業イベントでは、主催者と参加者の役割が明確に分かれています。主催者はプログラムを企画し、登壇者を手配し、会場を準備します。参加者は、そのプログラムを視聴します。

つまり、

主催者=提供する側

参加者=受け取る側

という構造です。しかし、gamescomのようなイベントでは、この境界が曖昧になります。例えば、コスプレを楽しむ参加者。主催者が用意した展示物ではありませんが、その存在が会場の雰囲気をつくります。ゲームの感想を発信する参加者。主催者の公式広告ではありませんが、その投稿が別のファンの興味を引きます。会場で交流するコミュニティ。主催者がすべての会話を企画しているわけではありませんが、その交流自体が参加価値になります。

つまり、参加者がイベントのコンテンツの一部になっているのです。これは企業イベントでも重要な考え方です。

3.「参加型」と「共創型」は何が違うのか

最近では、企業イベントでも参加型コンテンツが増えています。クイズ大会。投票。ワークショップ。体験ブース。

いずれも参加者の能動性を高める有効な手法です。しかし、参加型と共創型には違いがあります。

イベントの3つの参加モデル

・視聴型:主催者がつくった内容を見る講演・映像

・参加型:主催者が用意した体験に参加する投票・クイズ

・共創型:参加者自身が価値や内容を生み出す作品・交流・発信(編集部による整理)。

実際のイベントでは3つのモデルが組み合わされます。例えば、周年イベントで参加者がクイズに答えるのは参加型です。一方、社員が自分たちの挑戦事例を持ち寄り、会場で共有し、次の事業アイデアを生み出すなら共創型です。

参加者が行動するだけでなく、参加者の行動によってイベントの中身が変わる。これが共創型イベントの大きな特徴です。

4.「好き」という感情がコミュニティを動かす

gamescomの強さを考えるうえで欠かせないのが、ファンコミュニティの存在です。ゲームファンは、必ずしも新製品の情報だけを求めて参加しているわけではありません。同じゲームが好きな人に会いたい。自分の好きな世界観を共有したい。開発者に直接思いを伝えたい。特別な体験を仲間と共有したい。こうした感情が参加の動機になります。

企業イベントでも、同じ構造をつくることはできないでしょうか。例えば、ある業務システムのユーザーイベント。通常なら、新機能の紹介や導入事例の発表が中心です。しかし、そこに「ユーザー同士が自分たちの活用方法を共有する場」を加えたらどうでしょう。ある会社の工夫が、別の会社の課題解決につながる。参加者同士でノウハウを交換する。優れた活用事例をみんなで称える。

するとイベントは、製品の説明会ではなく、同じ課題や関心を持つ人が集まるコミュニティの場になります。

5.参加者が発信することで、イベントは会場の外へ広がる

gamescomのもう一つの特徴は、オンラインへの波及力です。

2025年のgamescomでは、主催者が発表した開催期間中の速報値として、イベント関連コンテンツの動画再生回数が6億3,000万回を超えました。新作ゲーム発表番組「Opening Night Live」だけでも7,200万回を記録しています。

gamescom 2025の主な実績

35.7万人

現地来場者数

1,568

出展社・団体数

128か国

来場者の出身国・地域

6.3億回+

動画再生回数(開催中の速報値)

(出典:gamescom主催者発表、JETRO。動画再生回数はユニーク視聴者数ではありません。ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース – ジェトロ)

この数字は、イベントの影響力が現地来場者数だけでは測れないことを示しています。会場に参加した人が、体験を発信する。その投稿を見た人が、興味を持つ。オンラインで情報を得た人が、次回は現地に行きたいと思う。

こうした循環が生まれる可能性があります。ただし、公式番組の配信やメディアによる報道も大きな役割を担っているため、動画再生のすべてが参加者による発信の成果というわけではありません。重要なのは、主催者による情報発信と、参加者による自発的な発信が重なり合うことです。

SNS投稿を促すより、「発信したくなる体験」をつくる

企業イベントでもSNS投稿を増やそうと、ハッシュタグキャンペーンを実施することがあります。しかし、ハッシュタグを用意するだけで投稿が増えるとは限りません。参加者が自ら発信したくなる理由が必要です。

例えば、自分がつくった作品を発表できる。仲間と一緒に何かを達成できる。自分の意見がイベントの結果に反映される。そうした体験には、誰かに伝えたくなる動機が生まれます。SNSでの拡散を考える前に、共有したくなる体験を設計する。これが重要なのではないでしょうか。

6.企業イベントに「共創」を取り入れるなら

では、gamescomから学んだ考え方を、企業イベントに応用するとどうなるでしょうか。例えば、500名規模の企業キックオフを考えてみます。

従来の構成は、経営方針の発表、部門別の活動報告、表彰、懇親会といったものが中心です。これを共創型に変えるなら、参加者がイベントの中身をつくる仕掛けを加えます。

従来のプログラム共創型への発展例
経営方針発表社員が方針を実現するアイデアを提案
部門別活動報告各部門が成功事例や課題を展示
社員表彰社員同士が推薦し、挑戦を称える
パネルディスカッション参加者からテーマや質問を募集
懇親会共通テーマごとに交流する仕組みを導入

特に重要なのは、参加者がイベントの成果に影響を与えられることです。例えば、社員から集めた新規事業アイデアの中から、経営陣が実際に検討するテーマを選ぶ。あるいは、参加者同士で議論した改善提案を、翌月から社内で試行する。

こうした仕組みがあれば、イベントでの参加体験が、実際の企業活動につながります。イベントのためのイベントではなく、イベントを通じて企業が変化することを目指せるのです。

7.参加者が主役になるほど、運営設計が重要になる

ただし、共創型イベントには難しさもあります。参加者が自由に活動するほど、当日の進行は予測しにくくなります。ワークショップの進捗が異なる。予定外の質問が出る。参加者の作品や発表内容が直前まで確定しない。交流の盛り上がりによって、時間が延びる。

こうした状況に対応するためには、従来以上に柔軟な運営が求められます。特に必要になるのは、事前の役割分担、進行管理、変更情報の共有、当日の判断基準です。

例えば、参加者から募集した発表内容をいつまでに確定するのか。誰が内容を確認するのか。当日の進行変更を誰が判断するのか。こうした作業を整理しておくことで、参加者の自由度とイベントの安定運営を両立できます。

参加者に自由な体験を提供するためには、主催者側の準備をより緻密にする必要があるのです。そして、AIを活用したタスク管理や情報共有によって運営負担を軽減できれば、担当者は参加者の体験価値を高める企画に、より多くの時間を使えるようになります。

8.共創型イベントの成果をどう測るか

共創型イベントでは、来場者数や満足度に加えて、参加者がどれだけ主体的に関わったかを測ることも重要です。

例えば、次のようなKPIが考えられます。

KPI測定内容
能動参加率ワークショップや投稿などに参加した人の割合
参加者発信数参加者が作成・公開したコンテンツ数
交流創出数新たに生まれた交流やマッチングの件数
アイデア創出数参加者から提案された企画や改善案の数
アイデア実行率提案のうち実際に試行・実行された割合
コミュニティ継続率イベント後も活動を続けた参加者の割合

もちろん、数が多ければよいというものではありません。例えば、100件のアイデアが生まれても、一つも実行されなければ成果は限定的です。一方、10件の提案から一つの新しい事業が生まれれば、大きな価値につながる可能性があります。

重要なのは、参加者の行動が、イベント後にどのような成果へつながったかまで測ることです。

日本企業が取り入れたい5つのポイント

1.参加者を「観客」だけにしない:視聴するだけでなく、発表、制作、交流などの役割を用意する。

2.参加者が生み出すコンテンツを増やす:主催者がすべてを用意せず、参加者の経験やアイデアをイベントに取り入れる。

3.共通の関心を持つ人が集まる仕組みをつくる:商品やサービスへの関心を、参加者同士の交流へ発展させる。

4.発信したくなる体験を設計する:SNS投稿を依頼するだけでなく、共有したくなる理由をつくる。

5.イベント後の行動につなげる:生まれたアイデアや交流を、実際の活動や継続的なコミュニティへ発展させる。

編集部からの考察

イベントの価値は、誰がつくるのでしょうか。主催者でしょうか。登壇者でしょうか。演出家でしょうか。もちろん、それぞれが重要な役割を担っています。

しかし、gamescomのようなイベントを見ていると、もう一つの存在が浮かび上がります。それが、参加者です。好きなものについて語る。仲間と交流する。新しいものをつくる。自分の体験を発信する。

その一つひとつが、イベントの魅力を高めています。前回のVol.15では、イベント終了後も参加者との関係を継続することの重要性を取り上げました。今回のテーマは、その関係をさらに発展させるものです。参加者との関係を維持するだけではなく、参加者自身が新しい価値を生み出す。

そのときイベントは、主催者から参加者へ情報を届ける場ではなくなります。主催者と参加者が、一緒に価値をつくる場へと変わるのです。これからイベントを企画するとき、こんな問いを加えてみてはいかがでしょうか。

「参加者がいなければ生まれないコンテンツは、このイベントにあるだろうか?」その答えが、イベントをさらに魅力的なものにするヒントになるかもしれません。