Destination Watch Vol.15で取り上げるのは、ドイツのフランクフルトです。フランクフルトと聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、金融。欧州中央銀行。国際空港。高層ビル。といった「ビジネス都市」としての姿ではないでしょうか。

しかし、MICEの世界から見ると、もう一つ重要な顔があります。それが、「世界有数の見本市都市」という顔です。

フランクフルトでは、何百年にもわたって世界中から商人や企業、人材が集まり、商品や情報を交換してきました。現在、その中心となっているのがMesse Frankfurtです。

2025年、Messe Frankfurtグループは世界約60拠点で349件のイベントを開催。約480万人が参加しました。その中でもフランクフルトで開催される自社見本市では、出展企業の約81%、来場者の約57%がドイツ国外から参加しています。

フランクフルトではイベントが、単なる「催事」ではありません。産業と産業をつなぐインフラになっているのです。


約800年前から続く「人を集めるビジネス」

Messe Frankfurtは、自らの歴史を約800年と説明しています。中世からフランクフルトは交易の拠点として発展してきました。世界中から商人が集まり、商品を見る。価格を知る。取引先を探す。新しい情報を得る。そして商談する。

考えてみれば、これは現在の展示会とほとんど同じです。時代が変わり、商品が変わり、テクノロジーが変わっても、「人と人がリアルに集まり、ビジネスを生み出す」というイベントの本質は変わっていません。


フランクフルトでは「イベント=市場」

例えば、自動車関連の世界的展示会Automechanika Frankfurt。2026年には、約4,400社が出展。出展企業は約80カ国。来場者は、11万2,000人超。

しかも来場者は173カ国から集まりました。そこでは、AI。Software Defined Vehicle。コネクテッドカー。運転支援。代替駆動システム。など、自動車産業の未来を左右するテーマが議論されています。

つまり展示会とは、「商品を並べる場所」だけではありません。その産業の未来を世界中の企業が確認する場所になっています。


「展示会に出る」こと自体が企業戦略になる

例えば自動車部品メーカーが新製品を開発したとします。通常なら、営業担当者が顧客企業へ連絡する。アポイントを取る。訪問する。製品を説明する。これを何十社、何百社と繰り返します。

しかし世界的な展示会なら、顧客候補そのものが世界中から集まってくる。1日で、ドイツ企業。日本企業。米国企業。中国企業。インド企業。と商談できる可能性があります。

さらに、競合企業を見る。新しい技術を見る。市場動向を知る。パートナーを探す。メディアへ発信する。採用候補者と出会う。

つまり展示会は、営業・マーケティング・商品開発・市場調査・PRを同時に行える場所なのです。


注目施設

Messe Frankfurt

その中心がMesse Frankfurtです。大規模な展示ホール群に加え、Congress Center。Forum。Festhalle。そしてCongress Center Kap Europaなど、多様なイベント施設が集積しています。

2025年にはフランクフルトだけでも、見本市や展示会に約90万人が来場。さらに会議、イベントなどには約82万5,000人が参加しました。重要なのは、単に巨大な会場があることではありません。

見本市、国際会議、企業イベント、文化イベントなどを年間を通じて開催できる「イベント都市基盤」があること。これがフランクフルトの強さです。


MICE業界そのものもフランクフルトに集まる

象徴的なのがIMEX Frankfurtです。IMEXは、世界のMICE業界を代表する展示会の一つ。

世界中から、イベント主催者。Convention Bureau。ホテル。イベント施設。DMC。イベントテクノロジー企業。などが集まります。

2025年には、1万3,000人超が参加。その中には4,000人を超えるMICEバイヤー、そして約2,900社の出展企業が含まれていました。

さらにIMEXとMesse Frankfurtは契約を延長し、2030年までフランクフルトで開催されることが決まっています。つまりフランクフルトは、イベントを開催する都市であるだけではありません。「イベント業界そのものが商談する都市」でもあるのです。


フランクフルトが強い5つの理由

① 世界へつながるアクセス

国際MICEでは、「世界から来やすい」こと自体が競争力になります。フランクフルトには欧州最大級の国際ハブ空港があります。世界中から参加者が集まりやすい。

さらに鉄道ネットワークによって、ドイツ国内や欧州各都市ともつながっています。MICEでは会場の豪華さだけでなく、参加者がそこへ到達するまでの時間も重要なUXです。


② 巨大なイベントインフラ

大型展示会。国際会議。企業イベント。コンサート。スポーツイベント。さまざまなイベントを受け入れられる施設群があります。2026年第3四半期だけでも、Messe Frankfurtでは30件の国際的なゲストイベントを予定。

その内訳には16件の会議・コンベンション、13件のコンサート等が含まれています。つまりイベント施設が、年間数回だけ利用される箱ではありません。常に人が集まる都市インフラとして機能しています。


③ イベントと産業が結びついている

フランクフルトで開催されるイベントを見ると、自動車。消費財。テキスタイル。建築・設備。食品技術。医薬品。IT。など、多様な産業があります。

重要なのは、イベントが産業から独立して存在していないことです。

産業がある。

↓

企業がある。

↓

課題がある。

↓

技術が生まれる。

↓

展示会で発表する。

↓

世界の企業が集まる。

↓

商談が生まれる。

↓

新しい市場が生まれる。イベントが産業の循環の中に組み込まれています。


④ イベントブランドを「世界展開」している

Messe Frankfurtの面白さは、フランクフルトに人を集めるだけではありません。イベントブランド自体を世界へ展開しています。2025年には世界約60拠点で349件のイベントを開催。イベントブランドを海外へ展開することで、世界各地でコミュニティを形成し、そのネットワークをフランクフルトにもつなげる。

いわば、イベントのグローバルプラットフォームをつくっています。


⑤ 「集客」ではなく「取引」を生む

観光イベントなら、何人来たか。どれだけ消費したか。が重要になります。しかしBtoB展示会では、その先があります。

何件商談したか。新しい代理店ができたか。海外進出につながったか。共同開発が始まったか。新しい商品を発見したか。つまりイベントの価値は、「来場者数」ではなく「イベント後に生まれたビジネス」でも測ることができます。


BizMICE Insight

イベントを「コスト」ではなく「産業インフラ」と考える

日本ではイベントを、「プロモーション施策」「周年行事」「展示会」「カンファレンス」と個別に考えることが少なくありません。

しかしフランクフルトを見ると、少し違う景色が見えてきます。

イベントを、

企業と企業をつなぐ

技術と市場をつなぐ

研究と企業をつなぐ

国内企業と海外企業をつなぐ

ためのインフラとして考える。するとイベントへの投資の意味も変わります。


日本ならどう応用できる?

例えば、

名古屋 × モビリティ

自動車メーカー。

部品メーカー。

スタートアップ。

大学。

海外企業。

を世界規模のイベントでつなぐ。

神戸 × 医療・ライフサイエンス

医療機関。

研究機関。

製薬企業。

MedTech。

投資家。

をイベントでつなぐ。

福岡 × スタートアップ

起業家。

VC。

大企業。

海外スタートアップ。

をつなぐ。

札幌・北海道 × 食・農業

生産者。

食品メーカー。

研究者。

海外バイヤー。

をつなぐ。

重要なのは、「イベントを開催する」ことを目的にしないこと。その地域にある産業を、世界とつなぐためにイベントを使う。ここにフランクフルト型MICEの本質があります。


「イベント会社」ではなく「市場をつくる会社」

この視点は、イベント関連企業にとっても重要です。例えば展示会を企画するとき、会場を借りる。ブースを作る。出展企業を集める。来場者を集める。という発想だけではなく、「この業界にどんな市場をつくるのか」から考える。そうするとイベント会社の役割も変わります。

Before

イベントを運営する会社

から、

After

企業と企業が出会う「市場」をつくる会社

へ。

イベント産業の価値そのものが変わります。


Destination Watch Score

評価項目評価
国際アクセス★★★★★
会場インフラ★★★★★
産業との連携★★★★★
イベントブランド★★★★★
グローバルネットワーク★★★★★
ビジネス創出力★★★★★
日本が学べる度★★★★★

日本との比較

項目フランクフルト日本
MICEの位置づけ産業インフラ観光・交流・販促等、多様
展示会世界的ブランドを多数展開国内市場中心のイベントも多い
産業連携業界と展示会が強く連動産業クラスターごとに発展余地
海外ネットワークイベント自体を世界展開国内開催・誘致が中心
成果商談・市場形成来場者・商談・経済効果等
日本への示唆産業を世界につなぐ地域産業×イベントの強化

編集部コメント

シドニーが、「イベントが都市に残す価値までデザインする都市」

マドリードが、「都市に価値を生むイベントを選びにいく都市」

だとすれば、フランクフルトは、「イベントそのものを産業インフラにした都市」

と言えるのではないでしょうか。イベントがあるから、世界中から企業が来る。企業が来るから、情報が集まる。情報が集まるから、新しい技術が見つかる。人と人が出会うから、商談が生まれる。

そして、新しい市場が生まれる。約800年前から続くフランクフルトの見本市文化が教えてくれるのは、イベントの価値は、「人を集めること」そのものではないということです。

重要なのは、集まった人と企業の間で、何を生み出すか。イベントを単なる「一日」から、産業を動かすプラットフォームへ。日本のMICE・イベント産業を考えるうえでも、フランクフルトは非常に参考になる都市ではないでしょうか。