イベント会場に入る。ステージを見る。登壇者の話を聞く。展示を見る。そして帰る。

これまで、多くのイベントはこのようにつくられてきました。しかし今、イベントの体験設計が少しずつ変わっています。キーワードは、「没入」です。

イベントを見るのではなく、イベントの中に入る。さらに、参加者自身が物語の一部になる。そんなイベント体験が広がり始めています。

今日から始まる「思考実験展#002」

その一例が、本日9月18日から東京・飯田橋で開催される「思考実験展#002」です。

このシリーズは、これまで東京・大阪で累計2万人以上を動員。今回の新作では、参加者が「すべてがうまくいく未来の世界」を歩きながら、自ら選択し、その選択を記録していく体験が用意されています。

面白いのは、「作品を見る」だけではないという点です。

参加者自身が考える。選ぶ。進む。そして、その選択によって体験する意味が変わる。

つまり、参加者がいなければ完成しないイベントなのです。

なぜ「没入体験」は人を惹きつけるのか

映画を考えてみましょう。映画では、主人公の物語をスクリーン越しに見ます。ところが没入型イベントでは、自分自身が主人公になります。「あなたならどうする?」と問いかけられる。

選択する。その結果を見る。次の場所へ進む。こうすると、見る → 考える → 選ぶ → 行動するという体験が生まれます。

情報を一方的に受け取るだけではありません。自分の行動がイベント体験をつくっていく。だからこそ、記憶にも残りやすくなります。

海外では「ストーリーの中に入る」体験へ

この流れは海外でも進んでいます。今年のVenice Immersiveでは、68のXR・インタラクティブ作品が展開され、VRヘッドセットだけでなく軽量XRグラスなども使われています。

例えば17世紀のアムステルダムへ入り込むような作品や、社会課題を疑似体験する作品など、テクノロジーが単なる映像表現ではなく、**「物語の中へ人を入れる装置」**として使われています。ここは非常に重要です。

VRやXRを使うこと自体が目的ではありません。目的は、「体験させたい物語」をつくること。テクノロジーは、そのための手段なのです。

企業イベントにも「ストーリー」をつくる

では、企業イベントならどうでしょう。例えば新商品発表会。一般的には、

受付

オープニング

社長プレゼン

商品説明

体験展示

終了

という構成になります。これを「没入型」に変えてみます。例えば自動車メーカーなら、「2035年の東京」という未来の街を会場につくる。

参加者は入口で、「2035年の住民」になります。街を歩く。未来のモビリティを見る。AIと会話する。新しい移動サービスを体験する。最後に、その世界を実現する商品として新車が登場する。

すると新商品は、「説明されるもの」から「体験の中で必要性を理解するもの」へ変わります。

社内イベントなら「会社の未来」に入り込む

社内イベントでも使えます。例えば全社キックオフ。社長が、「今年の経営方針は○○です」と説明する。もちろん必要です。

しかし、それだけでは社員にとって「会社から聞いた話」になりがちです。

そこで、「3年後の会社」を会場につくってみる。未来の商品。未来のお客様。未来のオフィス。未来の社員。未来の働き方。参加者がその世界を歩きながら、「この未来を実現するために、自分は何をするのか」を考える。

すると経営方針が、会社の話から、自分の話へ変わります。

「説明する」のではなく「発見してもらう」

ここでイベント設計の考え方が大きく変わります。従来型イベントでは、主催者 → 参加者という情報の流れが中心です。

主催者が伝えたいことを、講演。映像。パネル。資料。などで説明します。

没入型イベントでは、参加者 → 発見という設計になります。参加者自身が歩き、見つけ、選び、考える。

そして最後に、「なるほど、こういうことだったのか」と気づく。この「自分で気づいた」という感覚が重要です。

会場を「場所」ではなく「世界」と考える

没入型イベントを考えるとき、会場選びも変わります。「500人入れる会場」ではなく、「どんな世界をつくれる会場か」で考えます。

受付は単なる受付ではありません。物語への入口。廊下は単なる移動スペースではありません。次の世界への転換点。展示ブースは単なる商品説明スペースではありません。参加者が発見する場所。ケータリングも同じです。物語に合わせた料理を提供すれば、食べることまでコンテンツになります。

イベントを構成するすべての要素が、世界観をつくる材料になるのです。

AIによって「一人ひとり違うイベント」も可能になる

そして今後、この考え方を大きく変える可能性があるのがAIです。例えばイベント開始時に、「あなたが興味のあるテーマは?」とAIが聞く。

参加者Aは、テクノロジー。

参加者Bは、マーケティング。

参加者Cは、サステナビリティ。

するとAIが、それぞれ違う体験ルートを提案する。同じイベントに参加しているのに、一人ひとり体験するストーリーが違う。そんなイベントも考えられます。

イベントは、「全員に同じプログラムを提供する場所」から、「一人ひとり違う体験を提供する場所」へ変わっていくかもしれません。

実は「テクノロジー」はなくてもいい

ここで注意したいことがあります。没入型イベントというと、VR。AR。XR。巨大LED。プロジェクションマッピング。などを想像しがちです。

しかし、没入体験=最新テクノロジーではありません。例えば参加者に、一枚のカードを渡す。そこに、「あなたは今日、新入社員です」と書いてある。それだけでも物語は始まります。

会場スタッフが、「○○さん、お待ちしていました」と話しかける。

それだけで参加者は、「観客」から「登場人物」になります。

大切なのは機材ではなく、参加者にどんな役割を与えるかなのです。

日本企業が取り入れたい5つのポイント

1.イベントに「物語」をつくる

受付から退場までを、一つのストーリーとして考えます。

2.参加者に「役割」を与える

見る人ではなく、イベントを完成させる人になってもらいます。

3.参加者に「選択」してもらう

選択によって、自分の体験だという感覚が強くなります。

4.説明する前に「体験」してもらう

商品や企業メッセージを、まず身体で理解してもらいます。

5.テクノロジーから考えない

「VRを使おう」ではなく、「どんな体験をさせたいか」から考えます。

編集部からの考察

この連載では、これまでイベントの価値をさまざまな角度から見てきました。イベントが、街へ行く理由をつくる。人を知らなかった街へ動かす。街にいる人までイベントへ巻き込む。

そして今回、もう一つ加えたいと思います。参加者を「別の世界」へ連れていく。

リアルイベントの大きな強みは、ここにあります。Webサイトでも、動画でも、SNSでも、情報は伝えられます。しかし、空間に入り、音を聞き、人と出会い、何かを触り、選択し、行動する。こうした体験を一度に提供できるメディアは多くありません。

だからイベントは、「情報を伝えるメディア」ではなく、「体験させるメディア」になれるのです。

これからイベントを企画するとき、「何を伝えよう?」と考える前に、一度こう問いかけてみてもいいかもしれません。「参加者に、どんな世界へ入り込んでもらいたいか?」そこから考えることで、イベントはもっと面白くなるのではないでしょうか。