「インセンティブトラベルなら、やはり海外。」ハワイ、シンガポール、バンコク、グアム――。報奨旅行と聞けば、こうした海外デスティネーションを思い浮かべる方も多いでしょう。もちろん、海外だからこそ生み出せる非日常感や特別感があります。

しかし、インセンティブトラベルの目的が「海外へ行くこと」ではなく、社員のモチベーション向上や組織の一体感、企業文化の醸成にあると考えるなら、選択肢は大きく広がります。

沖縄、北海道、京都、瀬戸内、軽井沢、金沢――。

日本国内にも、企業の目的に応じた魅力的なデスティネーションが数多くあります。今回は、「どこへ行きたいか」ではなく「何を実現したいか」から開催地を選ぶ、国内インセンティブトラベルについて考えます。

「海外=特別」という常識を疑ってみる

インセンティブトラベルにとって「特別感」は非常に重要です。そのため、日常から物理的にも心理的にも離れられる海外旅行は、今でも有力な選択肢です。

一方、海外開催には、

  • 航空運賃
  • 移動時間
  • パスポート
  • 為替
  • 言語
  • 食文化
  • 海外旅行に不慣れな参加者への対応

など、さまざまなハードルもあります。特に参加人数が増えるほど、運営負荷は大きくなります。そこで考えたいのが、「国内でも非日常をつくれないか?」という発想です。

国内開催の最大のメリットは「体験に投資できること」

例えば同じ予算を使う場合、海外では航空券や宿泊費などの比率が大きくなりがちです。一方、国内開催なら移動コストや時間を抑え、その分を、

  • 特別な会場
  • ガラディナー
  • 貸切体験
  • 地域文化プログラム
  • チームビルディング
  • 表彰演出

などへ振り向けられる可能性があります。つまり、「遠くへ行くための予算」から「記憶に残る体験をつくるための予算」へ。これはVol.4で紹介した「旅行ではなく体験をデザインする」という考え方にもつながります。

目的①|社員を思い切り称えたい:沖縄

国内インセンティブトラベルの代表的な候補の一つが沖縄です。青い海、リゾートホテル、独自の食文化など、本州とは大きく異なる環境があり、国内でありながら高い非日常感を演出できます。

例えば、

Day 1
到着 → ウェルカムパーティー

Day 2
チームアクティビティ → 自由時間 → 表彰式・ガラディナー

Day 3
地域文化体験 → 帰路

といった構成です。営業表彰や年間アワードなど、**「成果を出した社員に特別な時間を届ける」**ことを重視する企業と相性の良いデスティネーションです。

目的②|チームの一体感を高めたい:北海道

広大な自然を活かした体験設計ができる北海道は、チームビルディングとの相性があります。例えば、

  • アウトドア体験
  • ファーム体験
  • 食をテーマにしたプログラム
  • チーム対抗アクティビティ
  • 自然環境を活用したオフサイト

などです。普段はオフィスで働くメンバーが、まったく異なる環境で一緒に何かへ挑戦するその過程で、肩書きや部署を超えたコミュニケーションが生まれます。「組織の距離を縮めたい」企業にとって、有力な選択肢になるでしょう。

目的③|経営理念や文化を共有したい:京都

京都の魅力は、単なる観光資源の多さだけではありません。歴史、伝統、文化、職人技など、企業の理念や価値観と結び付けられるコンテンツが豊富にあります。

例えば、

  • 寺院での特別プログラム
  • 茶道
  • 座禅
  • 伝統工芸体験
  • 職人との交流
  • 歴史的空間を活用したディナー

など。単なる観光ではなく、

「長く続く企業とは何か」
「自分たちが大切にすべき価値とは何か」

を考える時間として設計することもできます。経営層や次世代リーダーを対象としたインセンティブプログラムとも親和性があります。

目的④|イノベーションや創造性を刺激したい:瀬戸内

アートや建築、島々の自然環境などを活用できる瀬戸内も興味深いデスティネーションです。日常のオフィスから離れ、

  • アートを見る
  • 島を巡る
  • 地域の人と交流する
  • 仲間と未来について話す

といった時間をつくることで、通常の研修とは異なる刺激を提供できます。

特に、

  • 新規事業チーム
  • クリエイティブ部門
  • 次世代リーダー
  • 経営幹部

などを対象とした少人数のプログラムと相性が良いでしょう。

目的⑤|経営層と社員の距離を縮めたい:軽井沢

東京からアクセスしやすく、自然環境にも恵まれた軽井沢は、短期間のオフサイト型プログラムを設計しやすい場所です。

例えば、

1日目:経営セッション → チームディスカッション → 経営陣とのディナー

2日目:アクティビティ → 振り返り → 帰京

という1泊2日の設計も可能です。豪華な旅行というより、「経営層と社員がじっくり話す特別な時間」を提供するタイプのインセンティブに向いています。

「人気の場所」ではなく「目的に合う場所」を選ぶ

ここまでを見ると、同じ国内でもデスティネーションによって特徴が大きく異なることが分かります。

経営目的デスティネーション候補体験設計
営業表彰・報奨沖縄リゾート・表彰・ガラディナー
チームビルディング北海道自然・共同体験
企業文化・理念浸透京都歴史・文化・伝統
イノベーション瀬戸内アート・地域交流
経営層との交流軽井沢オフサイト・対話
地域文化・食金沢工芸・食・文化体験

つまり、開催地選びで最初に聞くべき質問は、「どこへ行きたいですか?」ではありません。「このインセンティブトラベルで、組織にどんな変化を起こしたいですか?」なのです。

国内開催なら「ユニークベニュー」を活用する

国内開催を「普通の社員旅行」にしないために、ぜひ検討したいのがユニークベニューです。ユニークベニューとは、歴史的建造物や文化施設、美術館など、通常のホテル宴会場とは異なる特別な空間をイベント会場として活用する考え方です。

例えば、昼間は地域文化を体験し、夕方から特別な会場へ移動。そこでCEOから参加者へメッセージを送り、表彰式を行い、その後ガラディナーへ。こうしたストーリーを設計すれば、海外へ行かなくても、「この会社だから経験できた特別な一日」をつくることができます。

国内だからこそ「地域とのつながり」をつくる

もう一つ、今後重要になるのが地域との関係です。

インセンティブトラベルに、

  • 地域企業との交流
  • 伝統産業体験
  • 地域課題を考えるワークショップ
  • 環境保全活動
  • 地域文化体験

などを組み込む。すると旅行は単なる消費ではなく、地域との関係を生み出す企業活動になります。参加者にとっても、「観光した」以上の記憶が残ります。サステナビリティや地域創生を重視する企業にとって、今後さらに重要な視点になるでしょう。

DESTINATION CASE

沖縄に学ぶ「国内でも非日常をつくる」

沖縄がインセンティブトラベルに適している理由は、単にリゾートだからではありません。

自然、文化、食、ホテル、MICE施設など複数の要素を組み合わせ、**「表彰+交流+体験」**を一つのストーリーとして設計しやすい点にあります。

例えば、

WELCOME
参加者だけのウェルカムレセプション

CONNECT
チームで地域文化や自然を体験

CELEBRATE
夕方から表彰式

MEMORY
特別なガラディナー

という構成です。「沖縄へ旅行する」のではなく、「成果を称える3日間を沖縄でデザインする」。この発想の違いが、通常の社員旅行と戦略的なインセンティブトラベルを分けます。

国内デスティネーションを選ぶ「5つの基準」

候補地を比較するときは、次の5つで評価すると整理しやすくなります。

① 非日常性:普段の生活から心理的に離れられるか。

② アクセス:全国から参加者が集まりやすいか。

③ 体験コンテンツ:その地域ならではの体験があるか。

④ 会場・宿泊:表彰式や交流会まで一体的に設計できるか。

⑤ 企業目的との親和性:今回の経営・人事・営業目的と合っているか。

最後の⑤が最も重要です。開催地は「人気ランキング」で決めるものではありません。企業が実現したい成果から逆算して選ぶものだからです。

編集部コラム

「海外へ行くこと」がインセンティブなのではない

インセンティブトラベルを考えるとき、「海外でなければ特別感がない」と思ってしまいがちです。しかし、Vol.1からこの連載で考えてきたように、本来の目的は旅行そのものではありません。社員を称える。仲間とのつながりをつくる。経営理念を共有する。次の挑戦へのモチベーションを生み出す。

その目的を実現できるのであれば、開催地は海外でも国内でも構いません。むしろ国内だからこそ、移動に使っていた時間や予算を「体験」へ投資できる場合もあります。

重要なのは、「どこへ連れて行けば喜ぶか」ではなく、「そこで何を感じてもらいたいか」。目的地を選ぶことは、インセンティブトラベルの体験を設計することです。

日本各地に眠る文化、自然、食、人、そして特別な会場。それらを組み合わせれば、国内でも世界に負けないインセンティブ体験をつくることができるはずです。