K-POP、韓国ドラマ、映画、ビューティー、グルメ。いまや世界的なブランドとなった「K-カルチャー」の中心地、韓国・ソウル。

しかし、ソウルが世界から注目されているのは観光やエンターテインメントだけではありません。実はソウルは、国際会議や展示会、企業イベントを数多く開催するアジア有数のMICE都市でもあります。

さらに興味深いのは、ビジネスとエンターテインメントを別々に考えるのではなく、**「MICE×テクノロジー×カルチャー」**を一つの都市体験として組み合わせていることです。

ソウル市は2026年にもMICE産業の成長計画を打ち出し、誘致から開催後までの支援強化や、MICE参加者向けの「Seoul, After Business」など、ビジネスと観光を融合する施策を進めています。今回は、日本から最も近い世界的MICE都市の一つ、ソウルの成功戦略を探ります。

1. ソウルMICEを象徴する「COEX」

ソウルのMICEを語るうえで欠かせないのが、江南(カンナム)エリアにある**COEX(コエックス)**です。COEXは約36,000㎡の展示スペースを備え、年間200以上の展示会、2,500以上の国際会議・イベントを開催する韓国を代表するMICE施設です。

しかし、COEXの特徴は単に「大きな展示会場」であることではありません。

周辺には、

  • ホテル
  • ショッピングモール
  • レストラン
  • エンターテインメント施設
  • オフィス
  • 観光スポット

などが集積しています。つまり、会議・展示・宿泊・食事・買い物・エンターテインメントを一つのエリアで完結できるのです。

COEX自身も周辺企業と「COEX MICE Cluster」を形成し、ホテルや交通、観光、ショッピングなどを含めてMICE参加者を受け入れる仕組みを構築しています。ラスベガスにも通じる「街と会場を一体化する」という発想です。

2. K-カルチャーが「参加する理由」になる

ソウルのMICEにおける大きな武器が、世界的に人気を集めるK-カルチャーです。K-POPや韓国ドラマだけではありません。ファッション、コスメ、グルメ、アート、ゲーム、eスポーツなど、ソウルには世界へ発信できるコンテンツが数多くあります。

これはMICEにとって非常に大きな意味を持ちます。国際会議や企業イベントの参加者は、「会議だけ」を目的に都市を訪れるわけではありません。

イベント終了後に、

「この街で何ができるか」

という体験まで含めて開催地を評価します。ソウルは、ビジネスの前後に**「ここでしか体験できないコンテンツ」**を組み込める都市なのです。

3. 「ビジネス+観光」を都市が後押しする

この考え方は、現在のソウル市のMICE政策にも明確に表れています。2026年に発表されたMICE産業成長計画では、ソウル市は**「Seoul, After Business」**というブレジャー(Business+Leisure)プログラムを打ち出しました。

対象はMICE参加者だけでなく、その同伴者にも広げています。

つまり、

昼は国際会議や展示会。
夜はソウルという都市を楽しむ。

そこまで含めて「MICE体験」と考えているわけです。これは非常に重要なポイントです。

今後、都市間でイベント誘致競争が激しくなれば、「会議場の設備が良い」というだけでは差別化が難しくなります。イベントの前後にどんな体験を提供できるのか。そこが都市の競争力になっていきます。

4. デジタル先進都市だからできるMICE

韓国は世界有数のデジタル先進国でもあります。高速通信環境、キャッシュレス、デジタルサイネージなど、参加者が都市の中で自然にデジタルサービスを利用できる環境が整っています。

MICEにとって、これは大きな強みです。参加登録、会場案内、情報発信、参加者同士のコミュニケーションなど、イベント体験そのものをデジタル化しやすいからです。

そして今後はAIの活用も進むでしょう。「イベントDX」を会場の中だけで考えるのではなく、都市そのものをイベントプラットフォームとして考える。ソウルから学べる重要な視点です。

5. MICE施設を「点」ではなく「都市インフラ」へ

ソウルではMICEインフラの拡充も続いています。2024年11月にはCOEX Magok LeWestが開業しました。7,352㎡の展示ホールやホテル、会議施設などを備えた複合施設で、仁川国際空港から約15kmという立地も特徴です。

つまりソウルでは、従来の江南エリアだけにMICE機能を集中させるのではなく、新しいMICE拠点を都市の中に増やそうとしています。会場を単独で建設するのではなく、

会場+ホテル+交通+商業+都市体験

をセットで考える。これも世界のMICE都市に共通する考え方です。

6. 行政が「イベント誘致」で終わらない

ソウル市が2026年に発表したMICE産業成長計画も注目すべき内容です。市は同年、MICE分野に85億ウォンを投じる方針を示しました。支援対象も単なるイベント開催費だけではありません。

国際会議の誘致から開催、さらに開催後までを対象とした支援や、ソウルが重点を置く産業と連携した展示会への支援などを掲げています。ここにソウルのMICE戦略の本質があります。

「何件イベントを開催したか」だけではなく、「イベントによって都市に何を残すか」を考えている。MICEを観光政策だけではなく、産業政策として捉えているのです。

日本が学ぶべき5つのポイント

① 「日本に来る理由」をコンテンツ化する

日本にも、アニメ、ゲーム、音楽、食、ファッション、伝統文化など、世界的な競争力を持つコンテンツがあります。

それらを観光資源としてだけでなく、MICEプログラムの一部として設計する発想が重要です。

② 会場と街を一体化する

COEXの強みは、展示ホールだけではありません。ホテル、飲食、ショッピング、エンターテインメントまで含めたMICEエリア全体にあります。

日本でも「会場単体」から「エリア全体」へ視点を広げる必要があります。

③ イベントDXを「参加者体験」で考える

デジタル化の目的は運営効率だけではありません。受付、移動、商談、観光まで、参加者の体験をどこまでシームレスにできるか。そこにDXの価値があります。

④ ブレジャーを本格的に設計する

イベント終了後に「自由に観光してください」では十分ではありません。ソウルのように、ビジネス参加者向けの都市体験そのものを商品化・プログラム化する発想が必要です。

⑤ MICEと成長産業を結び付ける

AI、半導体、モビリティ、ゲーム、コンテンツなど、都市や地域が育成したい産業とイベント誘致を連動させる。イベントを産業のショーケースとして活用することで、企業誘致や投資、ビジネスマッチングへつなげることができます。

編集部より

ソウルを見ていて興味深いのは、MICEと観光、そしてエンターテインメントの境界が薄くなっていることです。

会議に参加する。

街を歩く。

韓国料理を楽しむ。

ショッピングをする。

最新のコンテンツに触れる。

これらすべてが、一つの「ソウル体験」になっています。そしてこれは、日本にとって非常に参考になるモデルではないでしょうか。日本にも東京、大阪、京都、福岡、札幌など、それぞれ全く異なる文化と産業を持つ都市があります。

さらに、食、アニメ、ゲーム、音楽、スポーツ、伝統文化など、世界から人を呼べるコンテンツも豊富です。必要なのは、それらをMICEと**「つなぐ」こと**なのかもしれません。世界のMICE都市の競争は、もはや「どこに一番大きな会議場があるか」だけではありません。

「その都市でイベントを開催すると、参加者にどんな体験が生まれるのか」。

ソウルの成功は、これからのMICE都市に求められる競争力を示しています。