講演が始まって間もなく、会場の後方に立っていたスタッフへ参加者から声がかかった。

「会場が寒いので、空調を調整できますか?」

スタッフは会場担当者を探したが、誰に連絡すればよいか分からない。進行担当者に聞くと「会場側に確認して」と言われ、会場側からは「主催者の了承が必要です」と返ってきた。その間にも、同じ相談がほかの参加者から寄せられる。

しばらくして主催者の担当者につながり、空調は調整された。しかし、最初の相談から対応までに時間がかかり、現場スタッフも持ち場を離れてしまった。

これは、イベントの現場で起こり得る架空のケースです。空調の調整自体は難しい作業ではありません。問題は、相談を受けた人が、誰に伝え、誰が判断するか決まっていなかったことです。

役割表に名前があっても、現場は止まる

イベントでは「受付」「誘導」「進行」「会場」「映像」など、担当ごとにスタッフを配置します。ところが、役割表に担当名を書くだけでは、予定外のことが起きた際に対応できません。

例えば、車いすを利用する参加者から座席の相談を受けたとき。登壇者が急に控室を変更したいと言ったとき。予定より参加者が増え、席を追加したいとき。

これらは複数の担当に関係します。最初に相談を受けたスタッフが、自分の判断で対応してよいのか分からなければ、「誰に聞けばいいですか?」という確認が続きます。

必要なのは、作業の担当者に加えて、例外が起きたときの判断者と連絡先を決めることです。

現場が止まる三つの原因

1.「担当する人」と「決める人」が分かれていない

スタッフは参加者の要望を受け付けられても、座席の変更や進行への影響を伴う判断はできないことがあります。どこまで現場で対応でき、どこから責任者に確認するかが曖昧だと、対応が遅れます。

2.連絡先はあるが、連絡の順番が決まっていない

全スタッフの電話番号を共有していても、最初に誰へ伝えるべきか分からなければ、何人にも同じ説明をすることになります。対応の途中で情報が食い違う原因にもなります。

3.判断者がほかの対応でつかまらない

責任者を一人だけ決めていても、その人が登壇者対応や本番の進行中で連絡を取れない場合があります。代わりに判断できる人まで決めておく必要があります。

「誰が何をするか」をどう決める?

準備段階では、通常業務と、起こり得る例外対応を分けて整理します。

起こり得る場面最初に受ける人判断する人対応する人
参加者からの空調の相談会場内の案内スタッフ主催者の現場責任者会場担当者
登壇者からの進行変更の相談登壇者担当進行責任者司会・映像・音響担当
席の追加が必要になった会場内の案内スタッフ主催者の現場責任者会場・誘導スタッフ

この表は一例です。イベントの規模や会場との取り決めに合わせて作成します。ポイントは、相談を受けたスタッフが次に誰へ伝えればよいか、一目で分かることです。

また、判断者に連絡がつかない場合の代行者と、急を要する場合の連絡手段も決めておきましょう。

当日、判断者が分からない問題が起きたら

まず、相談を受けたスタッフは、内容・場所・いつまでに対応が必要かを簡潔に伝えます。「会場が寒いそうです」だけでなく、「後方の複数の参加者から相談があり、講演中に対応が必要です」と伝えると、判断しやすくなります。

連絡を受けた責任者は、対応する人を一人決め、必要な関係者へ指示します。複数の人が別々に動くと、空調を二重に調整したり、参加者に異なる説明をしたりするおそれがあります。

対応後は、最初に相談を受けたスタッフにも結果を知らせます。参加者へ「調整しました」と伝えられるところまでが対応です。

本番前に確認したいチェックリスト

  • 各スタッフの通常業務を明確にしたか
  • 例外が起きた際の判断者を決めたか
  • 判断者が不在の場合の代行者を決めたか
  • スタッフごとの連絡手段を共有したか
  • 主催者・会場・運営会社の判断範囲を確認したか
  • 変更内容を誰が関係者へ伝えるか決めたか
  • 朝礼で「迷ったときの連絡先」を確認したか

判断の流れまで共有して、初めて役割分担になる

イベントでは、予定した仕事だけが起こるわけではありません。参加者や登壇者からの要望、会場設備の調整、進行の変更など、判断が必要な場面が必ず生じます。

そのとき現場を止めないためには、「誰が担当か」に加え、「誰が決めるか」「決まったことを誰が伝えるか」を共有しておくことが大切です。スタッフが迷わず動ける体制は、参加者への素早い対応にもつながります。

MICE Joyでは、準備タスクの担当者や期限を整理し、運営マニュアルの作成を支援できます。役割分担を決める際には、例外対応の判断者と連絡の流れもマニュアルに盛り込み、当日のスタッフ全員で確認しておきましょう。

次回予告:Vol.4「会場と主催者で認識が食い違っていた」

※冒頭は運営上の課題を説明するために構成した架空のケースです。