【イベントDXの新常識 ~参加者体験から考えるイベントの未来~】第12回 「何人来たか」だけでイベントを評価していませんか? ― これからのイベントKPIを考える
イベントが終了した翌日。社内の報告会で、こんな数字が並ぶ。「申込者数1,250名」「来場者数1,032名」「来場率82.6%」そして、「1,000人を超えたので、イベントは成功でした」と報告する。
果たして、本当にそれだけで「成功」と言えるだろうか。1,000人が来場しても、講演を聞かずに帰ってしまったかもしれない。展示ブースにはほとんど立ち寄らなかったかもしれない。誰とも話さなかったかもしれない。イベント終了後、企業や商品について何も覚えていないかもしれない。
逆に、参加者が300人でも、多くの商談が生まれたり、社員のエンゲージメントが高まったり、新しい行動につながったイベントなら、大きな成果を生んだと言える。
これからのイベントで重要なのは、「何人来たか」ではなく、「来た人に何が起きたか」。イベントDXによって、イベントの評価方法そのものが変わろうとしている。
なぜ「来場者数」がKPIになりやすかったのか
これまで来場者数がイベントの代表的なKPIだったのには理由がある。分かりやすいからだ。500人を目標にして600人来場した。前年800人だったイベントに今年は1,000人来た。数字で比較できるため、社内への説明もしやすい。
しかし、来場者数が教えてくれるのは、「会場まで来た」という事実までである。イベントに満足したのか。何に興味を持ったのか。誰と交流したのか。どんな行動につながったのか。そこまでは分からない。
イベントには「目的」がある
そもそも企業は、なぜイベントを開催するのだろう。単に人を集めることが目的ではないはずだ。
例えば展示会なら、新しい見込み顧客を獲得する。商談をつくる。商品への理解を深める。
社内イベントなら、経営方針を理解してもらう。社員同士の交流を増やす。エンゲージメントを高める。
採用イベントなら、会社を知ってもらう。働くイメージを持ってもらう。応募につなげる。
イベントごとに達成したい目的は違う。つまり、本来のKPIは、「何人集めたか」ではなく、「イベントの目的をどれだけ達成できたか」から逆算して設定する必要がある。
「集客」から「行動」までをファネルで考える
イベントの成果を考えるとき、参加者の行動を段階に分けると分かりやすい。
認知 → 申込 → 来場 → 参加 → 交流 → 満足 → 行動
例えばカンファレンスなら、イベントを知る。申し込む。会場へ来る。セッションを聞く。展示ブースを見る。参加者と交流する。イベントに満足する。資料をダウンロードする。問い合わせる。商談する。
この流れで見ると、「来場」はイベント体験の途中にすぎない。
これまでイベントでは、入口に近い「申込数」「来場者数」を測ることが多かった。これからは、その先まで見る必要がある。
KPI①「参加したか」を測る
まず見るべきなのが、イベントへの参加度だ。単に受付を通過しただけではなく、どのセッションを聞いたのか。何分滞在したのか。どの展示を見たのか。どのコンテンツを利用したのか。
例えば、「参加者1,000人」という数字だけを見るより、「基調講演の参加率78%」「平均セッション参加数2.7本」と分かった方が、イベントで実際に何が起きていたかが見えてくる。
KPI②「交流したか」を測る
リアルイベントの大きな価値の一つが、人と人との出会いだ。そこで、名刺交換数。ミーティング数。ネットワーキング参加率。参加者同士のメッセージ数。懇親会への参加率。なども重要な指標になり得る。
特にカンファレンスやビジネスイベントでは、「何人来たか」より「何件の出会いが生まれたか」の方が、本質的な成果を表しているケースもある。
KPI③「どう感じたか」を測る
行動データだけでは分からないこともある。そこで必要になるのが、参加者の感情や評価だ。例えば、イベント満足度。セッション満足度。「また参加したい」と思った割合。企業・ブランドへの好意度。推奨意向。「期待していた情報を得られたか」。
アンケートを組み合わせることで、「何をしたか」と「どう感じたか」の両方を見ることができる。
KPI④「イベント後に何が起きたか」を測る
そして、最も重要なのがイベント終了後だ。イベントの価値は、終了した瞬間に確定するわけではない。展示会で商品を知り、翌週問い合わせる。カンファレンスで出会った企業と、1か月後に商談する。採用イベントに参加し、その後エントリーする。社員総会で会社の戦略を理解し、仕事への意識が変わる。
イベントは、参加者の次の行動を生み出す装置でもある。だからこそ、問い合わせ数。商談化数。資料ダウンロード数。採用応募数。購入・契約。次回イベントへの参加。といったイベント後の行動まで追うことで、本当の成果が見えてくる。
「イベントKPIツリー」をつくる
イベントごとにKPIを考える際におすすめなのが、目的 → 成果 → 行動 → 指標の順番で整理することだ。
例えば、企業カンファレンスの目的が、「見込み顧客との関係を深める」だったとする。
すると、
目的
見込み顧客との関係を深める
↓
成果
企業・サービスへの理解や関心が高まる
↓
行動
セッション参加
展示ブース訪問
担当者との交流
資料閲覧
↓
KPI
セッション参加率
ブース訪問率
商談件数
資料ダウンロード率
イベント後問い合わせ率
という形で整理できる。重要なのは、測れる数字からKPIを決めないこと。イベントの目的から、測るべき数字を決めることである。
「1000人集める」から「100人を動かす」へ
ここまで考えると、イベントの成功について少し違った見方ができる。
例えば、
イベントA
来場者:1,000人
商談:20件
イベントB
来場者:500人
商談:80件
来場者数だけならイベントAの方が成功している。しかし「商談創出」が目的なら、評価は逆になる。だからこそ、これからイベント担当者が考えるべき問いは、「何人集めるか?」だけではない。「参加した人に、どんな変化を起こしたいか?」である。
データが「次回のイベント」を変える
KPIを測るもう一つの大きな目的がある。次回のイベントを良くすることだ。例えばデータを分析すると、基調講演の満足度は高かった。午後のセッションは離脱が多かった。交流企画に参加した人ほど満足度が高かった。
展示ブースを3つ以上訪問した参加者は問い合わせ率が高かった。といった傾向が見えてくるかもしれない。すると次回は、交流時間を増やそう。午後のプログラム構成を変えよう。展示ブースへの導線を改善しよう。という具体的な改善ができる。
イベントが、開催して終わる「単発の行事」から、データを使って進化する「継続的なプロセス」へ変わっていく。これもイベントDXがもたらす大きな変化である。
AIによって「数字の意味」まで分析する
さらに今後は、集めたデータを人間が一つひとつ分析する必要もなくなっていくだろう。例えばAIが、「今回の満足度は前回より8ポイント上昇しています」「ネットワーキングに参加した人は、不参加者より再参加意向が高い傾向があります」「午後のセッションで離脱率が上昇しています」「次回は交流時間を20分程度増やすことを検討してください」といった分析や改善案を提示する。
イベント担当者がダッシュボードを眺めて数字を読み解くだけでなく、AIと一緒に「なぜこの結果になったのか」を考える。そんなイベント分析も一般的になっていくかもしれない。
イベントの成功とは「人が動いたか」
イベントには、人を動かす力がある。知らなかったことを知る。興味がなかったものに興味を持つ。会ったことのない人と出会う。会社への理解が深まる。商品を欲しいと思う。応募してみようと思う。仕事をもっと頑張ろうと思う。
そう考えると、イベントの本当の成果は、参加人数ではなく「参加者にどんな変化を生み出したか」なのではないだろうか。
来場者数は、もちろん大切だ。しかし、それはゴールではない。イベントの入口である。「何人来たか」から「何人の心と行動を動かしたか」へ。これからのイベントKPIは、そんな考え方へ変わっていく。







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